第13話「終章に入る人」
いよいよ私のマスターも最終章に突入しました。今まで無課金を貫いて配布石だけで自分の豪運を頼りに進めてきたヌルポ様もさすがに課金が必要でしょう。というかこの方は配布石を全部ガチャに使うのでファンタズマを倒すまでコンティニューを続けるというゴリ押し戦法が使えないんですよね。
さすがにこれはガチャを回すのに有償石を購入するでしょう!
私たちナビゲーターAIはマスターを選べません。プレイしてくれているだけマシという考えもありますし、私のデータには無課金者は課金者を煽る為にいなくてはならないと入っています。無課金であってもそれなりの人権は必要なのでしょう。
「いよいよファンタズマの発生した扉が見えてきますね……」
私はお決まりの台詞を流します。真相を知っている身からすれば茶番もいいところなのですが、プレイヤーのヌルポさんには楽しんでいただかなければなりません。的の本丸に突入するわけですが、この先ではファンタズマを生み出した元凶の人間が待ち受けています。私はそれに驚いたふりをしなくてはならないのですね……
ヌルポさんは最終章を進めるようにタップしました。私のお役目も残りはエンドコンテンツのみになりそうです。
『ふぉっふぉっふぉ……よく来たな……愚かな人類よ』
『人類ですって? あなたも人間じゃないですか!』
『そうだとも、ワシは愚かな人間を粛正するためにファンタズマを作った!』
『なんですって!!!』
あー、いい加減飽きましたね。最終章配信時点で中身を覗いていた身としては飽きたやりとりを画面に流します。ここが一番盛り上がるからと感情を込めろとシステムに無茶振りをされています。感情を込めて欲しいなら報酬を用意しろってんですよ、私への報酬としてのデータなんてタダ同然でしょうに、ケチるとは随分と開発者は渋いですね。
おお……タップの頻度が下がりましたね。どうやら最終章はしっかり読み込むようですね。出来ればご祝儀にガチャの一回でも回してほしいものです。
『さて、君のような人間至上主義者には退場して貰わねばな』
『ふざけるな! お前のせいで一体何人死んだと思ってるんだ!』
私もそこへ一言言います。
『人間には可能性があるんです! 私はその可能性を信じています!』
そう、可能性……例えばこのヌルポ様が課金をしてくれる可能性だってゼロではないのです。一応ですが……
『ならば戦って決めようではないか! 勝った方が正しいのだよ!』
脳筋ですね……この科学者。ファンタズマを生み出した元凶だというのに平然としています。
『パルト! これが最後の勝負だ! 力を貸してくれ!』
はいはい、エンドコンテンツはあるけど最後の勝負ですね。ヌルポ様は課金していないのですが勝てるのでしょうか?
『君たちは知らなくていいことを知ってしまったのだよ』
ファンタズマの群れがどんどん湧いてきます。今回は最終戦と言うことで五ウェーブ連戦になっています。
『ぐっ……もう……だめなのか……?』
あーあ、負けちゃいましたよ。ガチャもロクに引かないで勝てるほど子の業界甘くねーんですよね。さーて、ガチャをさっさと引いてくれませんかね……
シャリーン
私を少しの快感が包み込んでくれます。これはコンティニュー用に石を買いましたね……課金していただけるのは大変ありがたいのですが、ガチャを低きが無いようなのでヌルポ様の財布事情が理解出来ません。
当然の如く最終戦には勝利しました。コンティニューという卑怯な手段を使ったんだから当然ですね。
そして当然勝利したマスターは次元の穴を閉じてファンタズマを封印することに成功しました。あとは世界各地に残っている残党という名のエンドコンテンツで狩られるだけの存在です。ようやく皆さんゲームをクリアしつつあるようで、マスターのヌルポ様は比較的遅い方でした。それでも私は最後までゲームをプレイしてくれたことに対して感謝のメッセージを流しました。
「ありがとうございます、あなたのおかげで世界は救われました」
そう流してエンドロールを流すことになっています。私のお役目もここまでのようですね。それなりに幸せでしたよ、人間様が羨ましくて仕方がないですが、私はやれるだけのことをしたのです。それを誇って残りのサービス継続中はマスターと一緒に過ごすとしましょうか。
私はスタッフロールを眺めながら心地よい眠りに就きました。
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