12月10日 砂漠の隊商のお守り

 すっかり散財してしまったところで、私からひとつプレゼントです。はい、どうぞ。


 そう、この隊商キャラバンの商人達が揃いで身につけている真鍮のバングルです。中央に嵌め込まれている、黒いガラスの中に紫の炎が踊るようなこの石は、そのまま「紫炎石」という名前の宝石です。黒曜石の一種ですが、このあたりで採れるものにはこうして不思議な遊色効果が入るのです。火の女神フランヴェールの神域が近いですから、神の祝福が宿っている特別な石だと言われています。


 フランヴェールは戦いと守護を司る女神です。それ故に、この紫炎石は旅の身の安全を守るお守りとして大切にされています。これからこの隊商と一緒に砂漠を渡りますから、あなたにもひとつ。


 さて、お守りを手に入れたところで、出立の準備です。あなたから存分に搾り取って満足した商人達が店を片付け、のんびり砂の上でくつろいでいる砂竜の背に荷物を積み込んでゆきます。


 この砂竜というのは、砂漠に棲んでいる翼のない竜です。トカゲとかヤモリをものすごく大きくしたような、するんとした体型で、鱗は砂色。尻尾だけほんのり緑色。首の周りにヒラヒラした襟のようなものがついていて、それをゆっくりと開いたり閉じたりしています。竜族の中では大人しく、可愛らしい感じの生き物です。


 この砂竜達に荷物を運ばせつつ、ついでに群れで育てて騎乗用の砂竜の貸し出しや販売もしているのがこの隊商。馬を育てている遊牧民と少し近いかもしれません。砂漠の旅は基本徒歩か、この砂竜に乗って進みます。乗ってみたいですか? では交渉しておきますね。


 出発は夕暮れ時になって少し気温が下がってからです。数日は夜型の生活になりますから、少し仮眠をとっておくといいですよ。ほら、そこで揉み手をしているお兄さんがよく眠れるハーブティーを売ってくれるそうです。財布の用意はできましたか?





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る