第30話エリザベスはアリーを懲らしめたい
「ギャハハッ! なにこの子! ハズレスキルのくせにうちに帰ってくるなんて、ぷっ。なんて恥晒しなのかしら? お願いだからグラキエス家に恥をかかせないでくれる?」
「エリザベスお姉様、アリーは立派な冒険者になりました。立派な妹です」
「ハズレスキルのことなんて放っておきなさいとあれ程言ったでしょう。あなたはハワード男爵の13番目の妻になるんだから、追放者にかまっていて変な噂がついたらどうするの?」
アリーはうわ〜と思った。実の姉ながら非常識なレベルの性格の悪さに天を仰いだ。
顔だちはアリーやソフィアに似て整っているが、吊り目に歪んだ表情が全てを台無しにしてしまっている。
「申し訳ありません。お姉様のおっしゃることはごもっともですが、はるか遠方のハワード男爵領まで事実に反した噂が伝わるとは思えませんが、用心深さに感服致しましたわ。まるで夢見の賢者様なみのご慧眼ですわ」
アリーは姉のソフィアの皮肉にも思わず、うわ〜と思った。
実の姉ながら頭の良さに関心する。遠回しに皮肉と共に自分のことを守ってくれる。
「ふふっ、わかればいいの……よ?」
愚かにもエリザベスは妹のソフィアが自分を褒め称えていると勘違いしたが、さすがにアレな彼女もそれが皮肉だと途中で気がついたようだ。
「ちょっと魔法学園での座学が良かったからと言って調子に乗るんじゃありません。ハワード男爵の13番目の妻となる自覚をお持ちなさい」
アリーはどんな自覚なの? と、ツッコミたかったが、それ以上に大好きな姉を傷つけようとするエリザベスに腹がたった。女の子にとって、13番目の妻となるなんて、どんな屈辱か? ましてや実の妹に投げかけた言葉なのだ。
「何よアリー、その目は?」
思わずエリザベスを睨んでしまった。以前ならそんな大それたことはしなかったが、大好きなソフィアを傷つけられて、恐怖より怒りが勝ってしまった。
「エリザベスお姉様! 止めて!」
「悪いけど死んでちょうだい」
「(私はなんて愚かだったのだろう)」
アリーは一人反省した。迂闊にエリザベスを睨んだばかりに大好きなソフィアに迷惑をかけてしまうかもしれない)」
ちょっとアレなエリザベスは途端に頭に血が登り、初級の炎を攻撃魔法を発動させた、 しかし。
「くらえ、大炎上! って、なんで平気なの?」
「(ここは私が誠心誠意心を込めて謝ろう)」
「死ねぇぇぇぇぇぇ!! 超大炎上……なッ! なんで炎弾いてんのよ!」
「(でも、どう謝ればエリザベスお姉様は許してくれるのかしら?)」
アリーは必殺の攻撃魔法を次々と繰り出すエリザベスに全く気がつかなかった。
「落ち着いて私! そんな訳がないわ。きっと、卑怯な魔道具かなんかよ! この卑怯者め、それならこれはどうだ!! 《愚風斬-撃-》! 《土撃斬 -撃-》!! 《氷撃 -撃-》!!!」
エリザベスは次々と違う属性の魔法も繰り出してきた。炎のスキルはどうした?
「ギャハハッ! 死ねぇええッ! ———って、はね返った炎で熱い!?」
アリーは必死にエリザベスへの謝罪の言葉を選んで熟考していたため、炎の上級魔法を受けていることに気がつかない。水属性の上、神装のドレスを装備しているアリーに生半可な炎の攻撃魔法など効果はない。
「ハァ……ハァ……な、何なのこの子?…………し、仕方ないわ。これだけは使いたくなかった! 私の究極魔法! 細胞の一片たりも残しませんから覚悟して!!」
いや、細胞の一片も残さないって、怖い女である。それに、それは唯の殺人である。
エリザベスはアリーを驚愕の視線で見るが、肩で息をしながら、息も絶え絶え最後の魔法の詠唱を始めた。まるで魔王とでも戦っているかの様な様相だ。
「求めるは奈落の炎。奈落に巣くう煉獄の魔人、炎を司る餓鬼地獄の魔人よ、炎の神に仕えし炎の管理人よ。魔人エグゾーダスの名において命じる。炎よ! 全てを焼き尽くせ!?」
アリーはようやく頭の中の整理が出来て、謝罪の言葉を告げようと姉エリザベスの方を見るが、あれ? と思う。気のせいか攻撃魔法の呪文を唱えているように思える。思わず大好きな姉、ソフィアの方を見る。やっぱり、お姉ちゃんは綺麗だな。髪は綺麗で艶やか。正しく天使みたいだなとうっとりする。
でも、彼女の表情はこわばっていた。
「(どういうこと?)」
一人、アリーは戸惑っていた。
「……そ、そんな!?」
姉ソフィアが、絞り出すような声で言った。
「え?」
アリーはエリザベスの周りを良く見た。すると彼女の上には真っ黒に蠢く炎の魔法陣が描かれていた。
「(あれは神級の炎の魔法のアレンジバージョン?)」
「(まあ……ビックリしだけど、大丈夫だよ)」
沈黙していた聖剣がアリーに声をかける。
「(君の魔法で彼女の魔法陣に干渉するといいよ。流石に神装のドレスでも危険だよ)」
アリーはようやく、姉のエリザベスが自分に向かって究極の最上級魔法を唱えていることに気が付いた。
先ず、頭上に出現した漆黒の炎の魔法陣に氷の魔法陣を組み込み相殺する。
そして、氷の塊に魔力を込めて、掃除の要領で魔法陣の周りにクルクルと舞わせて発動済の炎を綺麗にかき消した。
「......えええええぇ?」
何故かエリザベスが変な声をあげる、そして。
「エリザベスお姉様! 大変申し訳ございませんれしッ......た」
「アリー、それより大丈夫なの? お姉様の攻撃魔法を受けて平気な筈が......」
ソフィアが妹のアリーを気遣うが、こんな時にも安定して噛んでしまうアリーだった。
「え? 攻撃魔法? ご、ごめんなさい。気がつかなくて……」
「き、気がつかなかっ......た......ッて?」
エリザベスはなぜか、ぶるぶると震えて。
「......わ、私、魔力もスキルもA級判定よね? そうよね? おかしいおかしい。きっとこれは夢よね? そうよね? それか妖精さんが私に悪戯してるのよね? そうよね?」
何故か自問自答を延々と続けるのだった。
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