第27話アリーは人の生き血を飲むのはちょっと嫌である

「ええっ!」


「どうしたんですか?」


怪訝な顔をするアリー。だが、驚く方が普通である。アリーは 白い羽根をはためかせて実家のあるディセルドルフの街ディセルドルフへ降り立った。


「い、いや、何でもありません」


突然飛んで来たアリーに驚いた街の門番の衛兵は何事もなかったかのようにビシッと敬礼するとピクリとも動かない姿勢へと戻った。


「(挙動不審だよね。お巡りさんがいたら、職質だよね)」


「(多分、職質されるの君の方だよ)」


「(な、なんでぇー)」


アリーは今日何度目かの泣きそうな顔をする。


「(君、もう少し常識を身に付けた方がいいよ。僕、言ったよね? 吸血鬼は珍しいし、普通正体を隠してひっそり暮らしているのに、そんなに堂々と正体バラシてどうするの?)」


「(え? 私、自分の正体隠してるよ。一言も自分が吸血鬼とは言ってないよ)」


アリーは実家で虐げられていたので、満足な教育は受けていない。もちろん学校にも行っていない。唯一、姉のソフィアが教えてくれた勉強と姉がこっそり差し入れてくれた古代書だけが知識の源だ。


なお、虐げられていたが、外出などは自由だったので、幼馴染の男の子もいるが、基本引きこもりな性格なので、非常識に拍車がかかった。


ちなみにアリーが魔王になりたいと思ったのは、想いを寄せていた幼馴染の男の子が最近できた女の子の友達と付き合い始めたからである。


アリーは心が狭いのである。ついでにヘタレである。


「(普通の人間が羽根持ってる? 空飛べる?)」


「(ぴぇッ!?)」


聖剣にまともに突っ込れて、何一つ申し開きができない。当たり前のことが全然わかってない。


「(まあ、君に常識がないのはわかっていたから、あえて放置してたけど)」


「(なんで? 教えてくれればよかったよ)」


「(痛い目みないと覚えないでしょ? このこと言ったの三回目だからね!)」


アリーは実家の街に着くまでに道を間違えて他の街にも立ち寄ったが、先程のやりとりは今日三度目である。


「(きゅん)」


アリーはしょげるのだが、聖剣はそんなアリーを好ましく思っていた。


『常識はないけど、いい子だ。これで魔王なんて目指してなければな』


まあ、アリーに悪事なんてできる訳がないことは十分理解していたが。


「(それより、そろそろ人の血を飲むことを覚えよう)」


「(ええ! 人の血を飲むの? ゲロ吐きそうなんだけど?)」


「(最初は抵抗あると思うけど、吸血鬼は一部の栄養を人や動物の血からじゃないと吸収できないだんだ)」


「(えええええ~)」


アリーはかなり狼狽した。血を飲むと恍惚としたエッチな気分になるのも嫌だけど、人間の血を飲むのはもっと嫌である。


血の滴るお肉YES、人間の生き血NO!!!である。


「(言うことを聞かないと君に常識を教えてあげないよ)」


「(やだ、教えてください聖剣さま、できれば生き血抜きで!)」


「(君、こういう時だけ僕のことを聖剣と言うんだね?)」


「(心の中ではいつも聖剣さまと尊んでいくます!)」


「(僕、君の心の中、全部読めるよ)」


だらだらと冷や汗が出るアリー。かなり、色々聖剣のことをどうしようかと試行錯誤していた。


案1:火山の溶岩の中に落とす× 自分も熱くなる


案2:農家の肥溜めの中に突っ込む× 既に実施済だが、自分も臭くなる


案3:海の中に投げ込む〇 多分、これが正解。


「(海に近づいたら、問答無用で体を乗っ取って、裸になるからね)」


「(や、止めてぇ! また、痴女と思われる!)」


例のアルデンヌのダンジョンの街では聖女伝説と同時に。


「なんか、ダンジョンでべらぼうに可愛い痴女が出たそうだ」


「え? 可愛いのか? それは是非とも見に行かんとな!」


痴女伝説も蔓延していた。


こうして、アリーは地元にも関わらず散々迷子になりながら、怪しげな店を訪れていた。


「これが人の血ですか?」


「そうだが、君は吸血鬼になったばかりなのかい?」


「はい。魔剣に刺されたら、吸血鬼にされました」


「魔剣? ぶっそうなことを言うな、それが本当なら君は魔王だぞ」


「え? 私、魔王に見えます!!」


嬉々として言うアリー、だが。


「いや、ただの女の子にしか見えんな」


「え~ん!」


怪訝そうにアリーを見る吸血鬼バーのマスターであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る