第6話キルクルス先生は助けたい

アリーの姉ソフィア。魔力に恵まれるも、末っ子のアリーへの愛を絶やさなかった唯一の人物。


ソフィアがいなければ、誕生していたのは聖人ではなく、正しく魔王とも言うべき人物だっただろう。


そんなソフィアは心を痛めていた。もちろん、追放されてしまった最愛の妹のことを案じてのことだ。




「気もそぞろだね。妹さんのことかね?」


「あ! すいません。キルクルス先生」


キルクルス先生はグラキエス家の魔法教師だ。


今はアリーの姉、ソフィアの為に月1回の魔法の家庭教師をしている。


長女のエリザベスなどは毎日家庭教師が訪問している位だが、次女のソフィアもまた、家族から疎まれ始めていた。何故なら。


「アリーさんのことは気の毒だと思う。だが、今は自分の心配をした方がいい。それに、私が私費でアリーさんを探している。もし見つかったら、養女にでも迎える。だから安心して君は自分の魔法の修行に勤しむべきだ。君のスキルは【回復術士】だ。極めることができれば、多くの人を救うことができる」


「はい。わかりました。ありがとうございます。キルクルス先生」


ソフィアは魔力にも恵まれ、スキルにも恵まれた。だが、グラキエス家は治癒魔法にあまり興味がない上、ソフィアはもう一つ魔法の才能が開花していなかった。


それで、最近は長女のエリザベスばかりがチヤホヤされて、ソフィアの存在はぞんざいに扱われるようになっていた。


キルクルス先生はソフィアの妹、アリーのことを思うと、怒りがわいた。


この国がいくら魔法が全ての国だと言っても、家族さえ魔法で全てを計ることはキルクルス先生の理解の範疇外だった。それに教え子のソフィアのことも気になる。


可愛い教え子がぞんざいに扱われることに、我慢がならなかった。


「......アリー」


ソフィアはそう呟くと、一枚の葉っぱを取り出してそっと掌に収めた。


「それは?」


キルクルス先生は気になった。アリーと関係があるのだろうが、一体、その葉っぱに何の意味があるのか?


「これは、あの子が初めて成功させた攻撃魔法の成果なんです」


「見せてごらん」


ソフィアはそっと葉っぱをキルクルス先生に差し出す。


葉っぱは既に枯れて来ていて、茶色になっていた。葉っぱの中心には直径5.56mmほどの穴が穿かれていた。


「あの子が初めて完成させた魔法なんです。風に舞う木の葉をあの子は打ち抜いたんです。威力はなくて、木の枝にもはじかれてしまいましたが」


「......ん?」


キルクルス先生は何か違和感を覚えた。


攻撃魔法? 木の枝にはじかれてしまう? 風に舞う木の葉を打ち抜く?


いや、そもそもこの葉っぱに空いた穴は一体どうやって?


「ソフィア君。アリーさんは一体どんな魔法で、この葉っぱに穴を開けたのかね?」


「フリーズ・ロックです。氷の小さな塊をぶつけて穴を開けたんです」


フリーズ・ロックとは氷を作る生活魔法で、夏場に飲み物に入れると冷たい飲料水が手に入る優れものだ。子供が熱を出した時に氷嚢を作るのにも役に立つ。


「......あ、ありえない」


「え?」


ソフィアはキルクルス先生の言葉に驚く。


「ソフィア君。アリーさんは呪文の詠唱を破棄したのかね?」


「え? いえ、そもそも呪文の詠唱なんてしてませんでしたよ。生活魔法なら当然じゃないですか?」


「なんだって!」


キルクルス先生が驚くのも無理はない。例え生活魔法であろうと、無詠唱の魔法など、聞いたことがない。歴史上、無詠唱魔法が使えた者はいないのだ。


無詠唱魔法の可能性がささやかれたのは、つい最近のことだ。


5年程前に詠唱破棄に成功した魔法使いがいた。もちろん魔法史上初のことだった。


詠唱破棄が可能であれば、無詠唱も可能では? という理論だ。


詠唱破棄とは脳内で簡易呪文を唱え、短時間で魔法を発動させることだ。


無詠唱とはその名の通り、魔法の呪文事態を唱えることがない。


そして重要なことは、詠唱破棄を成功させた魔法使いは魔力が微弱だったことだ。


いや、この世界の魔法の大半が魔力が弱い者が作ったと言っても過言ではない。


魔法の研究に必要なことは魔力量ではない。精緻な魔力操作技術なのだ。


一般的に魔力が小さい者の方が魔力操作に長けている傾向にある。


魔力が大きい者には細やかな魔力操作などできないのだ。


彼らは、ただ先人の作った魔法の呪文を唱えることで、安易に魔法を発動しているに過ぎない。


キルクルス先生が何故アリーの魔法があり得ないと思ったのか?


風に舞う木の葉を射抜く魔法使いなど、この大陸中には一人もいない筈だからだ。

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