第41話 残酷な躾
「ボス頭上も注意してくださいね」
「大丈夫だ! 今度はゴブリンの上だからな」
「それでも注意を払ってくださいよ?」
今度はゴブリンの上に乗って大きな扉までたどり着いた。
コボルトより繊細なところがあるのか、ゴブリンの方が移動している時は安定していた。
むしろ振動がなさすぎて寝てしまうほどだった。
ゴブリン……良い乗り物だ。
「ちょ、兄貴! こんなところで寝ないでくださいよ!」
「ああ、すまん」
俺はゴブリンに意識を狩られたようだ。気づいた時にはあの忌々しい扉の入り口トラップは終わって、知らないところにいた。
「トラップも減ってるので魔物が出てきてもいいんじゃないですか?」
「やっとコボルトちゃんに会えるんですね!」
「そもそもコボルトが出るダンジョンかわからないけど――」
「あっ……」
そんなことを言っていると目の前から魔物が現れた。
そんな中であいつだけは反応が違っていた。
「えっ、ちょ……」
「流石に数が多いですね」
「コボルトちゃんじゃないー! ボスは嘘つきですか? コボルトがいるって――」
「俺は言ってないぞ?」
「はい、兄貴はコボルトが出るとは言っていないと思いますよ」
目の前に現れたのは大量のスライムだった。
ダンジョン産のコボルトを楽しみにしていたコボルトは、縁で膝を抱えて座っている。
「まぁ、そのうち出てくるんじゃないか? スライムって厄介だけどそんなに強くないからな」
「あっ? そうなんですか?」
「だってあいつら柔らかいだけじゃん」
「それは厄介じゃないですか? ゴブリン界でもあいつら嫌われてますよ?」
「拙者もスライムにはいい思い出はないですね」
「オラの仲間達もあいつに触れて体溶かされてるやつ多かったですよ」
若いゴブリンはスライムの性質を知らずに突撃して、溶かされるものも多いとゴブリン界では有名な話らしい。
どうやらゴブリン達から見てもスライムは嫌われているようだ。
「あいつらってそんなに凶暴なんだな」
スライムってそんなに凶暴だったとは、初めて事実を知った。
冒険者達でもスライムを見たらとりあえず逃げろと言われているぐらいだが、俺にしたらなぜ逃げるのかがわからない。
「それでボスどうします?」
「どうするって?」
「いや……あそこまでスライムが多いとオラ達じゃ通れないですよ?」
「何言ってたんだ? 行くに決まってるだろ」
「げっ!? ボスはドMなんですか? 服をとかされてアーンとか言いたい人なんですか?」
「いや、兄貴はあの触手で体の隅々まで犯され――」
こいつらは何を考えているのだろうか。
そもそもスライムはそんなことをする魔物ではない。
服は溶かすし、触手は出すけど……。
「エンチャント"力強化"」
俺は付与魔法を発動させ二人を叩いた。これは紛れもない誤解だからな。あいつらには躾が必要だ。
「全く……スライムはこうやって倒すんだぞ」
「エンチャント"性質変化"硬質化」
俺はスライムに付与術の"性質変化"から硬質化を発動させた。
「あとは引きちぎるだけだ!」
「えっ」
スライムに近寄ると俺は両手で持った。
硬質化を付与するとスライムは手で持てるようになるのだ。
「フーン!!」
俺はそのまま両手を広げるように横に引っ張った。
――ブチブチ!
スライムを倒す時に厄介なのは中から変な汁が出てくるぐらいの認識だ。
俺は隣にいるスライムを持ったら引っ張るを繰り返す。
震えて逃げようとしても無駄だ。
――ブチブチ!
――ブチブチ!
――ブチブチ!
「ほら、こんな感じでやればスライムなんて……おい、どうしたんだ?」
「ボスは悪魔だ……あんないたいけなスライムを引きちぎるとは」
「むしろオラ達も引きちぎられるんじゃ……」
あまりにもこっちに近づいて来ない二人を心配して近づく。
どうやら何かを話してるようだ。
そんな二人の肩にそっと触れた。
「ヒイィィィィ!」
「なんでそんなに驚くだよ!」
どうやら俺は二人を驚かせたようだ。
「じゃあ、次はお前達の番だぞ? 見てただろ?」
「拙者もあの残酷行為をやるんですか?」
「オラは残酷なゴブリンにはなれないですよ?」
「お前ら……つべこべ言わずやってこい!」
俺は二人を掴みスライム達がいるところへ放り投げた。
こいつらは俺のことを何だと思っているのだろうか。
これからもこいつらには躾が必要だな。
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