第51話 事後処理
「兄様、お帰りなさい」
「お帰りなさいデニスさん、無事みたいね」
「陛下、ご無事にお帰りになられて何よりです」
会戦が行われて10日ほどたった昼間のアランドル城下町にデニス率いるアランドル王国軍が帰還する。デニスは城に帰ってくるとまず出迎えてくれたのは義理の弟ロロム、それに妻のカレンと配下のアレク。
伝聞では勝ったと聞いていたが、当事者の関係者としては無事な本人を見るのが一番安心するだろう。
「おう、ただいま」
「デニスさん。戦いはどうでしたか? 一応の勝敗はお父様が勝ったとは聞いていますけど、アシュトン伯爵はどうなりました?」
「お前のおかげで
ところでアレク、まず無いと思うけどお前カレンにちょっかい出しているわけじゃあないだろうな?」
「陛下も聞くんですね。私は妻や子供もいる身ですので、不倫をしたら彼らまで巻き込んで傷つけてしまいます。そんな馬鹿な真似は思いつく気もありませんよ」
「だろうな、そう言うと思ったよ。さて、帰ってきてすぐだが会議に出ることにした。またしばらく仕事漬けだけど良いか? 事後処理が色々とあってな」
せっかく帰ってきたばっかりだというのに、デニスはいそいそと仕事にとりかかった。相当忙しいようだ。
「お家取り潰し、ですか」
戦争もといエドワード王家の「お家騒動」が終わって、アランドル王家も事後処理に当たっていた。今回の会議の内容は「アシュトン伯爵家の
「奴は戦場で
「ですがアシュトン家は我が王国有数の名家。取り潰すとなると問題が起こりそうですが……」
「俺もそう思うが、また寝首を
「そこまでおっしゃるのなら我々も従いますが……本当によろしいでしょうか?」
先の戦いでやらかしたアシュトン家に対する「デニスへの
謀反は「一族郎党みな死罪」となってもおかしくない程の「とんでもない重罪」なのだが、アシュトン家はアランドル王国建国以来、王家を支え続けた名家中の名家。
その「落としどころ」については散々紛糾した。お家取り潰しですら重すぎるのでは? という声も多かった。
揉めに揉めた会議では結局のところ「罪のすべては当時のアシュトン家当主にあり、子供や孫には罪はない」となって
お家取り潰しだけで済ませることにして、子供や孫の命までは取らないことにしたのだ。
当然、子供や孫が逆恨みしてデニスに反抗する可能性も高かったが、長年王家に仕えてきた分の
「アシュトン家は建国以来の
「私個人の意見としてはもう少し罪を軽くしてもいいとは思うのですが、陛下がそうおっしゃるのなら……」
戦場で死んだアシュトン伯爵の遺族は息子が3人、娘が2人、孫に至っては10人以上という大所帯。
彼らは伯爵領内の管理を任されておりお家取り潰しによって無職になる所だったのだが、デニスとその配下たちは散々協議した結果、彼らに他の国内領主たちの補佐という形で国内各地にバラバラに配属して再就職先を充てることにしたのだ。
『暇をもてあましていると、悪魔が仕事を持ってくる』とは言ったもので、仕事が無いと良からぬ事を考えるのが世の常なのだ。
「しっかしまぁ予想はできたけど、家を一つ潰すとなるととんでもない
「私としてはこれでもすんなりと行ったくらいですよ。何せ相手はあのアシュトン家なんですから」
今でこそ「反デニス」という形で王家に歯向かうようになってしまったが元々はアランドル王家に忠誠を誓い、それをうわべだけの言葉でなく日々の行動として実直にこなしてきた
それを潰さなくてはいけないというのはかなり難しい仕事であった。
散々揉めに揉めた会議が終わり、今度は伝令からエドワード王家についての詳細な話を聞くことにした。
「ふーむなるほど、やはりそうなるか。こりゃ先がないな」
デニスがエドワード領を離れた後の話によると、デニスにとっての義理の父親が王の座に返り咲いたのは良いものの、まず王妃が
クーデターの時にロトエロ側に付いた配下も処刑あるいは国外追放処分となった。こうなるとただでさえ人材難なエドワード王家に「中間管理職」がいなくなって「全部王がやらなくてはいけない」状態になってしまった。
こういう形になるだろうと思っていたし、そうならざるを得ない事情はあるが働きすぎで寿命が縮むことにならなければいいのだが。とデニスは他人事のような心配を一応はしていた。
今回の話は主にカネのために(もちろん「義理の父親を救う」という大義もあったが)傭兵として振るまったのでありカネさえもらえればそれでいい、とかなりドライに割り切っていた。
戦いが終わった後のエドワード王国がどうなるかはある程度読んではいたがその通りになるとは。こればっかりはデニスにも何も出来ない。
あとは報酬を払うのはいつになるかが決まれば今回の事件は大方片付くし、アシュトン伯爵亡き今ようやく嫌がらせが減る事になるだろう。
特にカレンに対する嫌がらせは自分が嫌がらせを受けるよりも遥かにきついので、それが減るのはとても良い事だとも思っていた。
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