第49話 敗北
「ふむ……この辺が頃合い、か」
翌日の朝、ついに開戦しアランドル王国軍とエドワード王国軍とが衝突してしばし、自分たちがいる陣の後方にも敵兵が来るほど押し込んでいるさなか、アシュトン伯爵は決断する。
「総員、右へ! 呪殺王の首を取れ! 騎兵隊はデニス隊に突撃し、切り込んで奴までの道を確保しろ!」
ついにアシュトン伯爵が動いた。
「陛下! アシュトン伯爵率いる軍勢が我々を狙って突撃を開始しました!」
偵察隊からの報告がデニスに飛んでくる。
「やはりそう来たか。各員! 『
デニスは彼が率いる1500の兵、正確に言えば『事情』を知っている人間に対しに『
彼は一般兵の鎧へと着替え、自分の鎧を彼になんとなく背丈や見た目が似ている男に着せかえた。
「ぐお!」
不幸にも騎兵によるランスの直撃を受けてしまった弓兵が吹っ飛び、地面を転がる。
ランスを装備した騎兵による突撃というのは、地球で言えば「
鎧や盾ごときでどうこう出来るレベルをはるかに超えている。食らったらまず即死だ。
加えて歩兵から見たら、自分の身長の軽く倍はある巨体が突っ込んでくる。となるとそれだけで逃げだしたくなるほどの恐怖だろう。隊列は乱れ陣深くまで切り込まれる。
だがそれでも「想定の範囲内」だった。
部隊の横腹を突かれた格好になるデニス率いる王直属の部隊もまた、突然の奇襲を受けた。
「陛下! アシュトン隊がすぐそばまで迫っています!」
「大丈夫だ! まだやれる! このまま引くんじゃない!」
デニスは自分が慌てたら負ける。と冷静を装い事に当たる。槍兵を左翼に展開させ、騎馬突撃を阻止する。同時に槍兵という壁の後ろに弓兵を再配置させ、
それは適切な判断だったがいかんせん相手は士気が特に高く、短期決戦を目指しているのか侵攻速度も速く、兵が揃う前にデニスの前に兵が来る。デニスは戦うが……。
「うお!」
アシュトンの手勢である槍兵が、デニスの鎧に「釣り針の返し」のように槍の根元についた「小刃」で引っかけて、彼を馬上から引きずり下ろす。
その直後、まるで肉を求め群がるピラニアのように、アシュトン伯爵の手勢が群がった
「くっ、クソッ!」
デニスは持っていた短剣で対抗するが、いかんせん心細い。力比べで負け、ついにのどに刃が刺さる。
「呪殺王の首、このクレイドルがもらい受けた!」
デニスにトドメをさした兵は彼の首を上げ、高らかに宣言した。
「ふむ、そうか……」
アシュトン伯爵は伝令兵から上がる報告を聞き続けていた。作戦はうまくいっているようだ。
(……一体何なんだ? この不安は。作戦は上手くいっている、いっているはずなのだが……「何か」がおかしい)
よくよく考えてみると奇襲を受けて混乱するのは分かる。だが「この程度」で済むものなのか? もっと酷い混乱が起きてもいいのではないか?
アランドル前国王リリックと共に何度も戦場をくぐり抜けてきた身としては、何かがおかしい。「第六感」とでも言うべき何かが異変を伝えていた。
「アシュトン様! 呪殺王の首を取りました! このクレイドルがやったのです!」
「そうか!! ……!? 何だ!?」
デニスの首を見て疑問に思う。確かに似ているが……違う!
「こいつは……違う! 呪殺王じゃない! まさか、影武者か!?」
その時だ。デニス隊の仲間に率いられながら歩兵の格好をしていた男が左手から黒い球体を発射する。
それはアシュトン伯爵が乗っていた馬に当たり、直後ガクリと崩れ落ち地面に倒れた。当然アシュトン伯爵も落馬してしまう。
「その呪術……まさか、お前が呪殺王なのか!?」
彼のセリフを聞いて歩兵の男は兜のバイザーを開ける。その下から現れた顔は、まさに呪殺王デニスそのものだった。
「その通り、俺こそが本物の呪殺王デニスだ。そいつは影武者だよ」
「何……だとぉ!?」
影武者だと!? アシュトン伯爵の目が驚きと怒りでクワッと開かれる。
「貴様! 分かっていたのか!? 答えろ! 呪殺王!」
「ああ分かっていた。戦乱に乗じて俺を殺す計画を立てていたそうじゃないか。王族の血こそ引いてはいないが実質的な王である俺を殺そうとするなんて大したことをするじゃねえか。
その
「!? なぜ知っている!? カレンもアレクもどこにいるのか分からないはずだぞ!? 捜索隊だって出してるじゃないか!」
「ああその話か。すまん、ありゃウソだった。本当はカレンもアレクも城にいる。まぁいることはテメェみてえな連中にバレないように極秘にしてたけどな」
「……あのガキ! あのクソガキ! オレの計画をメチャクチャにしやがってぇ!」
「恨むんだったら地獄で好きなだけ恨め。じゃあな」
デニスはアシュトン伯爵の首を
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