第42話 クーデター成る。しかし多少の不備あり
とりあえず落ち着かせる、という名目で自分の寝室に連行されたエドワード国王。その怒りは到底おさまりそうには見えなかった。
「湯が沸かせそうなほど」頭全体を赤くして周りの兵士に怒鳴り散らす彼のもとに密約を交わした息子と配下がやってくる。
「サモエド! ロトエロ! これは一体どういうつもりなんだ!?」
「こういうつもりです、陛下」
サモエドが合図を送ると彼の配下である兵士たちが一斉にエドワード国王に向けて剣や槍を向ける。
ピン、と空気が張り詰められるのを感じると同時に、こいつまさか。と相手の目的を察する。
「これからのエドワード王国のかじ取りはこの私、ロトエロ=エドワードがさせていただきます。父上には「いなくなって」もらいますが、よろしいですね?」
「……貴様ら! こんなことして許されると思っているのか!?」
「もちろん。私も母上も死にたくないのでこうするしかないんですよ」
「許さんぞ! 何があろうがオレは貴様らを絶対に許さんぞ! 絶対に後悔させてやる! 覚悟しておくんだな!」
味方のいない王は怒りこそぶつけるが多勢に無勢。彼らの指示に従い、投獄されるしかなかった。
ほんの10分もたたないくらい前に自分の妻がつながれていた牢獄に、今度は自分がつながれることになってしまった。
ロトエロとサモエドは軍会議を開き、今後の予定を組み立てる真っ最中だった。
「ふーむ。味方は……総勢900か。よくここまで集められたな」
「エドワード王国軍の7割から8割程度を取り込むことができました。この日のために数年前から水面下で工作を続けた甲斐がありましたね」
「へぇ、もうそこまで段取りが済んでいるのか。大したもんだな」
ロトエロとサモエドは話を詰めていた。サモエド伯爵の水面下で工作を粘り強く進めていたのもあってその成果は非常に大きかった。
ロトエロ側は900、それに対し国王側は300という兵力差で、まず「まさか」は起きない。このまま相手をすりつぶせば王位は正式に自分の物になるだろう。
「ロトエロ様、あなたの兄上はいかがいたしますか?」
「あのバカか。とりあえずバクチさせとけば無害だし、大して脅威にもならないだろうから放っておけ。それより父上側の勢力の排除が先だな。
数では圧倒的に有利とはいえ、追い詰められると何をしでかすか分かったもんじゃないからな。
とりあえず父上側につく部隊に降伏勧告を送るとしよう。穏便な方法で済ませられるのならそれが一番いいからな」
ロトエロは降伏勧告書を発行し、兵に届けさせるよう渡した。
国王側につく軍が降伏勧告を受諾する少し前……牢獄に差す日光の角度からしておそらく外は夕方になっているのだろうと投獄されたエドワード国王は読んでいた。
だが、彼の目は死んではいなかった。すぐにここを脱出できると確信しているかのような瞳だった。
それとはまったくもって対照的な様子の、さっきからやる気のまるでない見張りが1人で王の様子を見ていたところ、彼の同僚がやってきた。
「よう。1杯やってこうぜ」
「ええ? まだ勤務時間中だぞ?」
「平気平気! 誰も気づきやしねえって。こんなところにいないで飲もうぜ、な!」
誘いを断れなかったのか、あるいは日ごろの職務
残されたのは牢獄内にいる王のみ。彼はこれを待っていたのだ。
(さて……
1年前に整備された王城地下の牢獄。その設計者は何を隠そう彼、エドワード国王によるものだ。
寝首を
彼が壁を押すと隠しドアが開き、入ると脱走用の通路に出た。途中に隠しておいた剣や軽い防具、それにいくばくかのカネを持って通路を抜け、ハシゴを上る。
ハシゴを上った後たどり着いたのは馬小屋、それも王族用の馬が飼育されている小屋で普段彼が使っている馬ももちろんいた。
「パトリシア、元気だったか? 今から長旅に出るんだ。準備は良いか?」
「ブルルル」
まるで王の言葉が分かっているかのように鼻息で返事する。王の馬として大切に飼育されているだけあって準備は万全だ。
それにまたがり、アランドル王国目指して駆け出した。
翌朝……
「大変です! 元国王が脱獄しました! どこにいるのか分かりません!」
「!? 何だとぉ!? 見張りは何をやってたんだ!?」
「ほんの数分目をそらしていただけで煙のように消えてしまったそうです!」
自分の父親が脱獄するという予定外の出来事が起こった。王位継承の宣言と共に処刑する予定だったのだがそれが外れた。
「クソッ! ……まぁいい。で、反乱兵はどうなった?」
「全員降伏したそうです。数の差で勝ち目がない、と判断したのでしょう」
「分かった。あとは……父上がどう出るかだな。このまま行方不明になってくれるとは思えないよなぁ?
至急捜索隊をアランドル王国方面に向けて放て。もし父上が何かするとしたら、アランドル王国がらみだ。カレンを嫁に行かせた以上デニス王は父上にとっての義理の息子だからな」
新たなエドワード王は切れ者で頭が回る。彼の父親の手を読んでいたのだ。
ロトエロの血のつながっていない父親が頼れるところは、娘のカレンを嫁がせたアランドル王国くらいしかないからだ。
彼の読みは当たっていた。ただしこの時点で追うには距離は離れすぎていたのだが。
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