第32話 王妃誘拐および殺害未遂事件の後始末
アランドル城の地下にある牢獄に、カレン誘拐および殺人未遂を企てたリーダーが捕らえられていた。
デニスとカレンは
「なぜ、こんなことを企てたんだ? 正直に話せ」
「何でこんなことを、だと? しらばっくれるな
全部お前が悪いんだ! お前がもっと早く死んでいれば俺の父さんと母さんは死なずに済んだんだぞ!?
これはその復讐だ! お前の大事な嫁をなぶり殺しにすれば少しは俺の気持ちがわかるんじゃないのか!?」
「デニスさんの呪いではなく城内に疫病が広まったと聞いています。その証拠にデニスさんも疫病にかかって伏していたと聞いていますけど……」
「ケッ! 呪殺王もあろうお方はこんなガキにも洗脳調教を施したんだな! よくやるぜ!」
カレンの話を聞いても王妃殺害未遂者は自分の意思を曲げない。
「人は「自分が信じたいもの」を信じ「信じたくない事」はどうやっても信じない。それが真実かどうかは関係ない。それこそ自分自身にいくら嘘をついてでも信じたいものを信じようとする」
カレンは以前、デニスが彼女に言っていたことを思い出していた。
「呪殺王! テメェを殺しても満足するのは一瞬だけだ! そもそも復讐のために本人を殺すなんてバカのやる事だ!
相手に死ぬよりも重い苦痛を与えることが! 自分だけが生きていることをとことん後悔させる、生きている限り痛み続ける鈍痛を与える事こそが! 復讐になるんだ!
ちょうどテメェが俺の親を殺したのと同じだ! 俺の両親を殺して俺の人生を
「だからカレンを殺そうとしたのか?」
「その通りだ! お前を殺すんじゃ気が晴れるのは一瞬だ! 死ぬまで続く苦痛を味あわせるためにカレンを狙ったんだ!
カレンだけじゃねえ! お前みたいなクソ野郎の関係者全員、王立魔法研究所の職員やアレクの家族もぶっ殺す予定だったんだ!
それを……」
「……もういい。連れていけ」
これ以上話しても平行線だ。
王立魔法研究所の職員やアレクの家族も殺す予定だった。そこまで危害を加えるつもりだというのなら、もう生かしておくわけにはいかない。
そう思ってデニスは話を切り上げてしまった。ギィイ……という金属と金属がこすれあう不快な音とともに錠前が外れて牢屋が開き、男は兵士に連れられ広場にあるギロチン台へと連れていかれた。
「デニスさん、刑罰を重くして対処はできないものなのでしょうか?」
「俺たち王族に対する刑罰はできるだけ重くしている。それこそ『王家の人間に危害を加えたもの、あるいはそれを企てた者は国家反逆の重罪として死罪にする』ってしても
『俺の命で呪殺王に生涯残る傷をつけられるのならお得な取引だな』とか『俺の人生クソみたいな、いやクソそのものな人生だからせめて最後に引っかき傷を残してから死のう』
って言って死ぬのを分かってでもやるからな。今回のアイツもそういう考えで事に及んだんだろうな」
「……」
カレンの表情はうつむいたままだ。
「……何で? 何でみんな、こんなにも憎しみあって生きる事しか出来ないの? おかしいよこんなの」
あまりにも酷い憎悪の連鎖にカレンは涙声にも聞こえそうな声で呟くようにそう言葉を発する。
「それは、お前が一番わかってる事なんじゃないのか? 心を読む力がある『魔女姫』と知られて、ずいぶんとひどい暮らしをしていたとは聞いている。それと一緒さ。
ましてやお前みたいに心が読めるどころじゃなくて、実際人を簡単に殺せる力を持っているとあれば、誰だってその力を悪用する。って考えちまうものさ」
「!! そうか……そうだよね。やっぱり「分からない」事ってただそれだけで恐ろしいと思うのでしょうか?」
「まぁな。特に本当に相手を呪い殺せる力を持っているのなら、なおさらそうだ。
それだけの能力を持つのなら疫病の1つや2つ簡単に起こせる、起こせるはずだ。そうでなければ家族が死んだ事に納得がつかない! ってな。
前にも言ったけど魔女狩りみたいなもんだよ。流行り病は魔女が広めた! って言って焼いてるのと一緒さ。ひどいもんだよ」
デニスはハァッ、とため息をついた。やりきれない思い、彼に向けられた不信の目線、それに大きなため息をついていた。
「……私は、私だけはデニスさんを信じます。決して持っている力を悪用するような人ではない。そう確信しています」
「そうか……りが……」
「え? デニスさん、さっきなんて言いました?」
「……特に何も言ってないが」
「そ、そう……」
(さっき「ありがとう」って言ってなかったっけ?)
そういえばデニスさんから「ありがとう」だなんて言われるのは初めてだし、今までの人生においても誰かから「ありがとう」と言われることは滅多なことではなかった。
カレンの中には妙な違和感、それは充実感ではあったのだが……それに気づくにはまだ時間がかかりそうだ。
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