第26話
「到着いたしました」
御者の声に、はっと我に返ったアイーシャはにやにやとした表情で自分を見つめる、エカテリーナとシャロンの表情にドギマギした。
「い、いかがなさったの?お婆さま、叔母さま」
「ふふふ、若いっていうのは素晴らしいなと思っていただけですわ」
アイーシャはエカテリーナと隣でこくこくと頷いているシャロンに首を大きく傾げた。
「ま、分かっていないなら構わないわ。さ、お買い物に行きましょう!!」
「? はい!!」
「アイーシャちゃんはどんなお洋服がいい?」
「動きやすいものや肌触りがいいものが希望です」
馬車から降りてわいわいと話していると、店長自ら出迎えてきた。
「いらっしゃいませ、エカテリーナ夫人、シャロン夫人、そして美しきお嬢様。奥のお部屋をご用意させていただいております」
店長はエカテリーナと同い年くらいの女性で、礼儀作法諸々が完璧でおおらかな人柄だった。奥の部屋に案内されると、お茶とカタログ、そして既製服が多く持ち込まれた。
「既製品のドレスも用意いただける?」
「かしこまりました」
アイーシャはシャロンと店長の会話を横目にカタログを眺めた。ここのお店のお洋服は比較的アイーシャの好みに合ったお店だった。デザインが無駄に豪奢な飾りではなく、生地やちょっとした装飾にこだわり、あまり華美でないのだ。
「お嬢様くらいの年齢でしたら、もっと派手なものがお好きですわよね?」
カタログを前にう~んと唸っていると、店長が不安げに尋ねてきた。
「いえ、そういうわけでは。ただ、こちらのドレスはこの辺に同色系の大柄のお花の刺繍を施せば華美になりすぎず、かと言って地味になりすぎないのではないかと」
「成る程!!確かに一理ありますわね!!ならば、このようなデザインでしたらいかがでしょう!?」
早速スケッチブックを取り出して新しいデザインを描き始めた店長の描いたデザインに、アイーシャはキラキラと目を輝かせた。
「とっても素敵ね!でも、このデザインの配置は多分現実的ではないわ。ここはこれくらい離して、ここはもう少しステッチにこだわれば、………」
「成る程!そちらの方がドレスの雰囲気に合った感じに仕上がりますわね!!」
「えぇ!!」
店長とアイーシャがドレスの新たなデザインのお話に花を咲かせている隣で、エカテリーナとシャロンはアイーシャの既製服を見ていた。ベラの報告でアイーシャが服をまともな枚数持っていないと知ったからだ。
「ねぇベラ、これなんかどうかしら?」
「いいかと思います。持ち込まれていたお洋服はこちらの国の1世代前の流行り物でしたから、今期の流行りを買えば問題ないはずです」
「そうなのね!!」
きゃきゃっと普段着を見繕っているシャロンは実に楽しげだった。エカテリーナは隣でドレスを吟味している。1番の候補は、アイーシャの瞳の色と氷のような水色の薄い布を何重にも重ねたグラデーションのような色彩の深みのある、軽やかな雰囲気のドレスなようだ。他にも数着ドレスを握っている。
「ねぇ、このドレスは持って帰るまでに手直しをすることは可能かしら?」
「は、はい!すぐに手直しいたします。その前にお嬢様のサイズをお測りしても?」
「えぇ、お願いしますわ」
エカテリーナの優雅な微笑みに、若いお針子は頬を染めた。
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