第18話

 新しい名を名乗ったアイーシャは恥ずかしそうにはにかんでカーテシーをした。


「あぁ。………やっとお爺さまと呼んでもらえた」

「よろしくお願い存じますわ」

「こちらこそよろしくお願いします。呼び方は叔父さまで構いませんよ」

「よろしくね!アイーシャちゃん!!お義母さまも嬉しいけれど、叔母さまで構わないわよ!!」

「よろしく!アイーシャ姉上」

「よろしく、アイーシャ姉さん」


 それぞれに返してもらい、アイーシャは優しい微笑みを浮かべた。


「あと、ベラから聞いたのだけれど、ユージオみたいにどこでも誰へでも敬語を使う訳ではないのだったら、家族なんだし、これからは敬語なしで話してちょうだい!!」

「………分かったわ、叔母さま」


 これでいい?という質問を視線に乗せたアイーシャはシャロンを上目遣いで見た。


「あぁ!!可愛いわ!!お義母様!明日はどこに行きましょう!!お洋服屋さん?それとも、宝石屋さん?靴屋さん?ケーキ屋さん?あぁ!!悩んでしまうわぁ!!」

「落ち着きなさい、シャロン。そうね………、明日はブロッサムに行きましょう。そうすれば、お洋服も靴も装飾品も揃うはずですわ。うふふ、楽しみね」


 ご機嫌な様子のシャロンとエカテリーナに、アイーシャはとても今持っている分で十分です、とはいうことができなかった。そして、自分の持っている物の品数が公爵家の人間として失格であることもちゃんと理解していた。


「お手柔らかに………」

「あら、着せ替え人形になってくれるの?」

「服に関するセンスは壊滅的ですので………」


 アイーシャの曖昧な微笑みに、シャロンはアイーシャのオレンジ色の契約精霊、エアデの言葉を思い出した。


「お義母様、どうしましょう!!今日は楽しみすぎて眠れそうにありませんわ!!」

「落ち着きなさい、シャロン。楽しみなのは決してあなただけではありませんわ」


 アイーシャは引き攣った笑みを浮かべながらも、あぁ、平和だなと思った。そして、願わくばこの平和がいつまでも続きますようにと、ささやかな願いを心に抱いた。


「お婆さま、叔母さま、わたしは明日に備えて今日はもう休ませてもらうわ。皆さま、おやすみなさい」

『おやすみなさい』


 精霊以外の挨拶を久しぶりに聴いたアイーシャは、一瞬聞き慣れぬものを聞いたような表情をしたが、やがて嬉しそうに微笑んだ。


「《アイーシャ、もう寝るの?》」

「いいえ、今日中に夫人へのプレゼント用とベラへの刺繍を完成させてしまおうと思って」

「《手伝うわ》」

「えぇ、お願い」


 大浴場のようにとても広いお風呂に寄ってから自室に戻ったアイーシャはいつも夜中の刺繍を手伝ってくれるエステルに手を貸してくれるようにお願いした。すると、真っ暗な部屋で、アイーシャの手元だけに柔らかな光が宿った。

 この光はそこまで強くないため、寝台に備え付けてあるカーテンを閉めて仕舞えば、外からは休んでいるように見える優れものなのだ。ディアン王国にいた頃、多忙で夜中以外に刺繍を楽しむ暇のなかったアイーシャがよく世話になっていた優れものだ。


「《ちゃんと12時までに寝ないとダメよ?》」

「分かっているわ」

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