バ美肉してたらリ美肉したんだけど。困りつつもとりあえず配信してる (連載版)

椎茸大使

第一話

配信を終えた俺はヘッドフォンを外して机の上に置いて一つ息を吐く。

先程まで配信していたカメラと繋がっているパソコンは既に電源が落ちて先程までと違い明るさはなく真っ黒な画面になっている。

そこに薄らと映るのは特徴のない、漫画やアニメで主人公とすれ違うだけのモブのような顔をした男子高校生ではなく、すれ違った人の記憶に残るような美少女。

真っ黒な画面ではっきりと見ることが出来ない状況でありながら美少女と分かる顔立ちをしている。

ならばその素顔はどれほどのものかと興味をそそられるだろう。

そんな美少女は……この俺、陣野ヒカルだ。

元々はごく普通に一般家庭に生まれ、アニメや漫画、ゲームなんかのサブカルチャーが好きになってそのまま高校生になったような、どこにでもいるような、本当にモブだった。

そして、男だった。


「何度見ても、違和感しかないなぁ……」


アニメや漫画、ゲームが好きならば、動画投稿サイトも好きになったとしても何もおかしなことはない。

ゲームの攻略や解説をしてたり、実況をしてたりしてるので、ゲームで行き詰まったりした時は頼らせてもらうこともあるのだから。

そうして見ているうちに実際に自分でやってみようと思った。

大手動画投稿サイト『OurTube』。

そのサイトで投稿する者をOurtuberと呼び、好奇心から俺はそのOurtuberになった。

そのOurtuberの中に仮初の肉体アバターに身を包んで配信する存在、即ちvirtualなOurTuber……Vtuberという者達がいる。

Ourtuberとして活動していくうちにVtuberが持つ非実在だからこそ魅せられる面白さを知る事になり、それもやってみたくなった。

そうして生まれたのがVtuber【神乃ヒカリ】。

もちろんそれはガワだけの話で中身は変わらずどこにでもいるような……実際探せば似た雰囲気の奴がゴロゴロいそうなごく普通の男子高校生だった。

それが突然TSして、今の美少女姿になってしまったわけだ。


《バ美肉DKをリ美肉したら面白そうだからやってみた。高校卒業までにチャンネル登録者数が10万超えたら戻してあげる》


イラストレーターママ曰く、神様が夢枕に立ってこう言われたそうだ。

なぜ俺の夢枕じゃない神様……というか実在してたんですね。

実際にTSさせられて、これまでの配信アーカイブは勿論、家族写真も箪笥の中身も何もかも変えられては信じざるを得ない。

信じざるを得ないが、それでも違和感はそう簡単になくなるはずもなく、TSしてから4回目の配信を終えた今も真っ黒画面に映る美少女顔に驚かされている。


ーーコンコン


「ヒカル? 今大丈夫?」

「あ、母さん。うん、今配信終わった所。何か用事?」

「急な仕事が入っちゃってさ、悪いんだけど夕食は適当に食べてくれる? 何か買うなら後でお金渡すから」

「分かったー」

「本当にごめんね」


母は雑誌編集者をしている関係で急な仕事が入ることも珍しくない。

父は会社員だが、それなりに英語が出来てしまったが為に出張が多く家を空けることも多い。

なのでこういう事は良くあるのだが……家の冷凍系、もう残ってないよ?

だって昨日の夜食べたし。

今日も買い物とか行ってなかったのは知ってるから新たに追加されてるなんて事はありえない。

……買いに行くか。

部屋着から外出着に変えるの面倒なんだけどなぁ。


ダボっとしたフリーサイズのTシャツを脱ぎ、そのまま外出用の服へと着替えていく。

その動作には一切迷いがなく、当たり前のように季節と気温に合わせたコーディネートをしていく。

何が恐ろしいって、これを自然にやってのける事だ。

TS前は間違いなく男だった。

それなのに、一般的な女性が普通にやっている事を特に意識する事なく、当たり前のように、自然に行える。

実際、男としての記憶は、経験は全てあるのに、そこに女としての記憶も経験も全てあって、尚且つその全てが自身が行なった事を憶えている。

理解している。

これって凄くない?

怖くない?

それもまた、信じる理由の一つなわけで……。

なので、金なしコネなしの雑魚Vtuberだけど出来るかどうかはともかくとしてとりあえず10万人を目指すことにしたわけだ。


ま、今は買い物優先だけどな。

明日からまた学校だし。

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