第6話 新しい友だち

 中学は楽しかった。ランドセルを背負った時とはやっぱり全然違う。飛鳥はそう感じていた。学ぶこともまた楽しかった。ただ、まだ差が付くような段階ではなかったせいもあるのだが。

 寮の同室は隣のクラスの女子だ。それは当然なのだが、全寮のうち女子は10人に満たなかった。その誰もがスポーツ特待生である。

 だけど、特に実績のない飛鳥とこの同室者だけが一般入学者だったのだ。

「山内璃央です。陸上やってます」

「わ、私は西條飛鳥。ゴルフ部です」

 これが2人の初対面だった。きれいなビルの4階の一室、ここが2人の家になった。

「飛鳥ちゃんはゴルフ部なんだ」

飛鳥より頭ひとつ分背の高い璃央が尋ねた。

「うん」

「面白い?」

「ゴルフは楽しいよ」

「部活は?」

 璃央にストレートに聞かれてやむを得ず、飛鳥もストレートに答えた。

「期待したほどには・・・」

「期待してたんだ」

「そりゃ、そうよ。強豪チームなんだもん。私はずっと1人でやって来たから、楽しみだったのよ」

「そうかあ」

 璃央が明るく答える。

「璃央ちゃんは?」

「私は元々期待してなかったから・・・」

「え?」

飛鳥が聞き返す。

「光輝学園はもともと陸上は弱いのよ。駅伝と長距離走くらいかな、決勝にいけるのは。それでも優勝はないし」

「そうなんだ」

「ハイジャンプなんて選手すらいないのよ」

「へえ。うちは全く逆だなあ。部員がね、中高合わせて100人以上いるの」

「凄いね」

「凄過ぎ。だからチームとかみんなでとか、そういう感じじゃ全然ないの」

飛鳥がやや投げやり気味に言う。

「ゴルフ部は強いからね。中学も高校も全国優勝の経験もあるし」

璃央がそれに答える。

「それに先輩は威張ってばかりだし。1年生なんか全然練習の順番すら回ってこない」

飛鳥が本音をぶつけた。

「それじゃ光輝に来た意味ないじゃない」

「でも、この寮のおかげで朝練1人で出来るから最高よ」

「でもでも、それじゃ飛鳥ちゃん、今までと同じなんじゃないの?」

 璃央が鋭いところを突いてきた。飛鳥はちょっと首を傾げて考えていたが、突然笑い出した。

 びっくりする璃央。

「ホントだあ。1人で練習場で打ってた時と一緒だ!」

 飛鳥がそう言うと璃央も笑い出した。ひとしきり2人で笑った後、璃央が真面目な顔になった。

「飛鳥ちゃん、寮に入ったのは何故なの? 出身東京なんでしょ?」

 今度は璃央にそう言われて飛鳥は下を向いてしまった。

「あ、ご、ごめん・・・聞いちゃいけなかった?」

璃央が慌てて謝る。

「いいの。小学校5年生の時に、両親が離婚してさ。お父さんがうちを出て行っちゃった・・・」

「じゃあお母さんと2人で・・・だったらなお飛鳥ちゃんが寮に入っちゃったら・・・」

「うん。お母さん泣いてたよ」

「だったらなんで?」

「お母さんと2人きりになってから、干渉が強くなってさ。私としても厳しかった訳よ」

「そうかも知れないけど」

 璃央は信じられないという顔で飛鳥を見ていた。

「別に仲が悪かったわけじゃないと思うんだけど・・・、私には離婚の原因は分からない。でもだからと言って、私を束縛するのは止めて欲しいよ。最近じゃ、私のゴルフにまで色々言うようになってきてて、うざいったら」

 璃央は飛鳥の言葉を遮るように、近くに来ると手を取った。

「飛鳥、これからもよろしく!」

璃央がその手を握り返す。

「うん。璃央、今後ともよろしくね!」

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