新作VRゲームβ版テストの抽選に落ちて、実力テストで赤点を叩き出した俺は、ゲーム禁止に? 3ヶ月間、憧れの戦士に会えることを楽しみにしていたのに、ログイン初日からパーティメンバーに固定されてました!
悠月 星花
第0話 にゃ
「リオン、スイッチ!」
「任せて! クズイくんは後ろのフォロー」
名を呼んだ瞬間には、中衛でラミアの眷属である小さな蛇を倒していたリオンがプラチナシルバーの髪を揺らし一陣の風と共に横を通りすぎた。
「了解!」
俺はその背中を見て、後ろに下がり息を整える。双剣……『黒猫の肉球』とか、ちょっとわけのわからないネーミングの双剣を握り直し、パーティの全体を見渡した。
本体のHPはだいぶ削ったと思うけど……腐っても階層主か。俺の攻撃はあの鱗と相性があんまりよくないみたいだな。
ここいら一体の小蛇はリオンが大方片付けてくれたから……よしっ!
大蛇の体から艶めかしい女体が生えているラミア。二階層の階層主にリオンは使い慣れた『クリスタルソード』で切りかかる。蛇の鱗がはがれ、エフェクトが散っていく。軽そうに見えるリオンの攻撃は、レベルに比重してかなり重い。このVRMMOのトップに君臨する廃人プレイヤーでもあるリオンは、二階層の階層主くらいなら結構なダメージを与えたはずだ。その証拠に、ラミアが傾いた。
「……さすがだなぁ、リオンは。それでも一撃では倒せないようになっているのは運営側も褒めるべきところだな。レベル制限は今のところないって話だけど、ゲーマーとしては、一撃で階層主がさよならバイバイしちゃクソだし。それじゃあ、つまんないだろうし?」
「クズにゃん、何グダグダ言ってるの?」
「なんでもない!」
「ココ、そろそろ何か攻撃がくるから用心して!」
リオンがココミに注意を促した直後。召喚した眷属の数も減り、さすがのラミアもリオンのヤバさが分かったのか、『魅了』をパーティー全体にかけてくる。ステータスの高いリオンはもちろん、俺も大丈夫そうだが、ココミが多少ふらついている。鍋の蓋を持っていたアイツは…………もう完全にラミアの術中だ。
「リオン、そのまま前衛を任せる! ココミとシラタマがヤバい!」
「わかった! 行って!」
最後方でお鍋の蓋を構えていたはずのシラタマは、フラフラと酒に……マタタビに酔ったかのごとく千鳥足でラミアに近寄っている。
きっと……目がハートとかになっているんじゃないだろうな? 全く、世話の焼けるヤツだ。
「おっ・きっ・ろっ!」
後方へ駆けるトップスピードのまま容赦なくシラタマをぶん殴ってやると、ハッとしたようにして、尻尾をピーンと立てている。この様子を見れば、『魅了』も覚めただろう。まだ夢うつつのような表情だが、「にゃあ」と俺を恨みがましく睨んでいるので大丈夫のようだ。ココミの方をみれば、首を振って『魅了』に抗ってはいるが、どうやらまだ抜け出せていない。ラミアはそんなココミに毒のある攻撃を仕掛けてきた。ココミは避けることすらできず、まともに食らってしまう。HPは減ったようだが、アクセサリーのおかげで毒効果は無効化されたようだ。
「大丈夫か? ココミ」
「……うん、だぶん。回復アイテムなら腐るほど持ってきたから。クズにゃん、ちょこっと、叩いてみて」
そういって後ろを向くココミ。あまり強く叩くと、ココミのHPはかなり減るだろう。シラタマには元々HPという概念がないから容赦なくいけたが、プレイヤーであるココミは違う。ココミの背中を叩かずそっと背中を撫でると、「もう大丈夫!」と力強く返事をしてくれる。
「クズにゃんって、何気に紳士?」
「そうだといいけどなぁ?」
「わぁ! 狼だったりする?」
アイテムでHPの回復も済ませたココミは余裕ができたのか、「襲わないでね?」なんてこんなときでも俺をからかってくる。小さくため息をついて、双剣であっちと指すと、てへっと舌を出していた。
どうやら、戦いの最中だということを少々忘れていたらしい。目つきが変わり、足を踏ん張り腰を落とす。小さなココミがさらに小さく俺の腰ぐらいにまでなった。
「リオン! いけるよ!」
「わかった! クズイくん、陽動をお願い! ココに重いの行ってもらおう!」
「了解! 行くぞ、ココミ!」
「オーライ! リオン、離れてて!」
次の瞬間には大きなハンマーをブンブン振り回す。小柄なココミの腕がさらに太くなる。足は遅いためラミアの格好の餌食となり狙われやすい。俺がラミアの気をひくよう駆けあがった。
直後には、ココミのハンマーが燃えるように赤くなる。
俺がラミアと対峙している間に真後ろに近寄り、「いっくよぉー!」の声がかかったときには、地鳴りの音とラミアが全てエフェクトに変わって散っていくのを見ていた。
その向こう側では、「やったねぇー! ココ」と「任せておきなさい!」と得意げにしているココミが見えた。遅れて「倒したにゃー!」とげんきんにも走ってくるシラタマを見て苦笑いをする。
ラミアを倒せたようなので、「次の階層に行こうか?」と開いた扉を指さした。
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