間の話 3

 片田舎の小さな酒場で。

「ぐえっへっへっへ」

「げっへっへっへ」

 顔を向かい合わせながら、不敵に笑い合う男が二人。

 小さな酒場には男達以外に客はおらず、カウンターには首の落ちた店主と思しき巨漢が伏せていた。

「これが本当なら――「「ぎゃあああああぁぁああぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁああぁあぁぁっっっ」」

 片田舎の小さな酒場だった場所で。

「いってててて……」

「重ってえな……」

 小柄な少女を押しつぶしている少女がいた。

 酒場だった場所には少女たちの他に、驚愕の表情を浮かべる男が二人いた。

「わたしが重たい女だって言うの‼」

「そうだよ物理的に重てぇんだよ!」

 ラロックはくだらないことを言うリベルラを押し上げて脱出する。

 服に付いた汚れを払いながらラロックは倒壊した酒場を見回す。

「あー、やっちまったなあ」

 頭をかきながらどうしようかと思っていたところ、口をパクパクさせて固まっている男二人の姿を見つける。

「悪ぃ、店潰しちまった」

「責任……取ってよね」

 ラロックは手を合わせて謝る。足元から声が聞こえたからとりあえず踏んでおく。

「いやいやいやいやッ なッなんで生きてんだ!?」

 我に返った男達はいつでも逃げられるようにラロック達からジリジリと距離をとる。

「あ? そりゃあたし達だからな。それよりなんで逃げようとすんだよ、ちゃんと直すから」

 答えになっていない答えを返しながら、ラロックは未だに寝そべっているリベルラを立ち上がらせる。なぜか顔に足跡が付いていた。

「いや! いい! 俺達もうここから出てくから!」

 男達の思っていることはただ一つ「コイツらやべえ」

 そんな男達の心中なぞ分かるはずもなく、ラロックは眉を顰める。

「なに言ってんだよ、あたしらが壊したんだから直すのは当たり前だろ」

 そう言って魔力結晶をとり出そうとウエストポーチに手を入れると。

「結構ですぅぅぅぅ!」

 男達は二人仲良く脱兎の勢いで逃げていく。

「ありゃ、どっか行っちゃったね」

 残された二人は首を傾げるとまあいいか、と納得することにした。

「それより、ここってどこ?」

 リベルラは壊れた建物内をぐるりと周る。

「うげぇ、死体だー」

 カウンターから隠れるように、首の落ちた巨漢が乾きかけだが血の海に横たわっていた。ちなみに落ちた近くに首は転がっていた。

 死体を見つけて顔を顰めるリベルラの側からラロックは顔を出す。

「おー、スパッといってんなあ」

「なんか物騒だね」

 二人は死体に興味を失ったのか、店の外へ出ることにした。

 

 店を出た二人の目に入ったのは、木でできた建物が並ぶ西部劇の舞台になりそうな場所だった。

 しかし辺りに人の気配はなく、風が虚しく土を運んでいるだけだった。

「転がるアレがあったら完全にそれだね」

「タンブルウィードだっけか?」

「おう、さすがラロック。物知りだね」

「まーな」

 気だるげに伸びをしながら建物に近づいていくラロックの後に続きながらリベルラは首を捻る。

「人いないねー」

「気配しねえもんな」

「ていうか全員死んでるし」

「……物騒だな」

 など物騒な話をしながら、建物の中に入る。するとリベルラの言った通り、家の中は血飛沫が汚し、首を切り落とされた死体が転がっていた。

 それから適当に歩いていると、ラロックが不意に足を止める。

「なあ、人いねえか?」

「え? あ、ホントだ、生き残りかな?」

 気配の感じた家の中に入った二人は部屋の中を見回す。

 部屋には死体があるにもかかわらずも血飛沫はおろか埃一つ無く不自然なほど綺麗だった。

「わけわかんねえぐらい綺麗だよな」

「おもてなししてくれるなら死体は隠してほしいよね」

 そんな呑気なことを言っていると、不意に二人の視界がぐにゃりと歪んだ。リベルラは咄嗟に異界を繋げるとラロックを抱きかかえて異界を渡る。

 飛ぶように異界を渡ったため、リベルラはラロックを抱えたまま地面に激突する。

「ぶぇふぇっ」

 ラロックはリベルラから抜け出すと軽く頭を振る。そして倒れているリベルラを抱き起す。

「助かった。大丈夫か?」

「ラロッ……ク……」

 か細い声のリベルラは自身を抱きかかえるラロックに、震える手を伸ばす。そして、ラロックの頬を撫でるとわずかに微笑み。

「ごめんね……この……前……冷蔵庫に……置いて……たプリン……食べたの……わたし……な……の……」

 喋り始めから道端に転がっている石を見るような目をリベルラに向けていたラロックは、一応聞いておこうかと思って聞いていたが、リベルラが話し終える頃になると抜いても抜いても生えてくる雑草を見るような目をリベルラに向けていた。

「心配したあたしが馬鹿だったわ」

「え⁉ 心配してくれたの⁉」

「うるせえ。んで、どこに飛んだんだ」

 リベルラは服を払いながら立ち上がるとウインクしながら答えた。

「探偵局」

「だよなあ……」

 ガックリとうなだれるラロックの頭を撫でながらリベルラは頬を染める。

「後でわたしが慰めてあげるからね、ここはわたしたちの愛の巣なんだから――ったい! 痛い痛い痛い痛いっ」

 頭を撫でるリベルラの腕を捻り上げるとそのまま放り投げる。

「ごゔぇらっ」

 飲食店のように並べられた椅子と机を巻き込みながらリベルラは床に転がる。

「あらぁ~、リベルラちゃん大丈夫?」

 するとおっとりとした声がその場に響く。

「大丈夫だろ」

「もう、ラロックちゃんはお姉ちゃんなんだから、もっと優しくしないダメよ?」

「ラロックを責めないで上げてティネケさん。ラロックはどうしても素直になれない不器用さんなの、だからたとえ愛情表現が歪んでいても、わたしは……わたしだけは受け入れてあげるって決めているの!」

「……てめえ消し飛ばすぞ」

 リベルラの訳の分からない発言に頬を引きつらせたラロックは魔力結晶を割ると魔力を漲らせたのだった。


 リベルラとラロックが異界を渡った後、ぐにゃりと歪んだ空間から一人の中性的な容姿の人物が現れた。

「侵入者……名前……奪わないと……」

 うわごとのように呟くとその人物は指を鳴らす。周囲の景色が膜のように剥がれて、隠れていた景色が姿を現す。部屋に飛び散る血飛沫、切り落とされた人間の頭が無残に転がる。

で好き勝手はしてほしくないんだけどなあ」

 そう呟くとその人物はふわりと浮き上がり、その姿を消したのだった。

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