たこ焼きにした夕べ
正面にはちょび髭のオジサンがいて、隣にはケンがいて、だけどぼくは無言でたこ焼きをほおばった。
他のたこ焼きと比べてどう、ということはないけど、なかなかおいしいたこ焼きだ。
腹ごしらえを済ませると、ケンはぼくも知っている、普通の道を通って公園に戻った。当然ぼくも――、それに続いて公園に戻った。公園では、もう誰も遊んでいなくって、ぼくの自転車だけが寂しそうに長い影を作っていた。
辺りはもう暗くなり始めている。見上げると、空は夕焼けに染まろうとしている。
「これから、どうするの?」
公園の入り口に、ぼくは立ち尽くす。
ケンはメガネを夕焼け色に光らせながら、ぼくの隣で中腰になると、
「もう遅いからなぁ。帰ろうか?」
と、ものすごく無責任なことを言った。
「帰るって、それじゃあ地球はどうなっちゃうのさ?」
「それは分からないよ。天のみぞ知る……ってね」
「そんな。だって、地球を救おうって、ケンが言い出したんじゃないか」
これじゃあ、地球が滅びるなんて言い出したのがどっちだか分からない。
ケンは少しだけ笑って、さらに無責任なことを言った。
「そんなことを言ったってマサキくん、もう家に帰らなくっちゃあ、家の人が心配するだろう」
これは……、本当にからかわれていただけなのかも知れない。そういえば、少し前までは空を飛んでいた隕石だか飛行機だか分からないモノは、いつの間にか見えなくなっている。
なんだか、全身から力がぬける気がした。
「いやぁ、今日はなかなか楽しかったよ。また明日、地球が滅びていなければまた会おう」
夕焼け色を揺らしながら走っていくケン。ぼくはその背中を見送って、見送って、見えなくなった背中をぼんやりと眺めて、そしてため息をついてから吸いつくようにして自転車にまたがった。
家に帰ると五時半。ちょうどカレーができあがっていて、だけど帰りが遅かったことについてちょっとだけ怒られたから、ぼくの食べたカレーはたこ焼きと同じで、できたてじゃなかった。
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