第15話

 私は天使の手を取り、天使の部屋へ連れていきました。そしてそこで儀式を施しました。私の体を強靭にするために必要であると天使をさとしました。そして天使が私の故郷へ旅立つために必要だと説きました。



 天使は納得し、承諾しました。ここで重要な点はそこです。これは合意なのです。一方的な儀式ではありません。共同作業なのです。それを理解してほしいのです。無理強いをしたのではないのです。れっきとした合意のもとなのです。そうして苦痛に耐えながらも天使は受け入れてくれたのです。


 あぁ、私はなんと幸せ者でしょう。私はそのとき、涙をはばかりませんでした。


 私はここにいる。生命を感じる。


 私は初めて生きている実感を得たのです。高校時分には味わうことのなかった脈動を私は全身に感じたのです。あんなものは戯れに過ぎません。だからこそ施設に通わされたのでしょう。


 しかしこれは違います。これは神聖なる儀式です。この世でもっとも美しい儀式なのです。


 私とて儀式のあと、自責の念にかられなかったわけではありません。本能を体外に排出すれば、急激に理性が舞い戻ります。そこで眩暈めまいのような罪悪感が私を襲ってきたのです。


 しかしそれは一度の悪事だからなのです。ひとつの過ちは精神を否応なくむしばんでいくものです。引き裂かれるような罪の意識に食い殺されそうになります。


 そんな罪の重圧から逃れるには道が二つあります。悔いて改心するか、もしくは、更に悪事を重ねるか、です。私の選択は考える余地もなく、後者だったのです。不可解とお思いでしょうが、悪事という実感はあるのです。ただそれを消滅させるためには更なる悪事が不可欠だったのです。


 私はそうして儀式を繰り返しました。毎日毎日儀式を繰り返しました。そうして私は良心を麻痺させていったのです。

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