第13話

 天使の家で私達は遊びました。テレビゲームをしたり、トランプをしたり、クッキーを焼いたりしました。天使は私を慕い、私を必要としてくれました。


 それだけに飽きたらず、天使は私と外へ出掛けたがりました。しかし私はかたくなにそれを受け入れませんでした。やましい気など更々ありませんでしたが、世間は冷酷ですから何を言われるかわかったものではありません。近所の目を極力避けたかった意図はあります。そんな良からぬ誤解で絶頂の幸福を邪魔はされたくありませんでした。


 それでも天使は私と出掛けたがりました。私の故郷へ連れて行って欲しいとねだりました。遠い世界から人間界へ舞い降りたと思っていましたから。


 天使を説得するために、太陽を長く浴びると溶けてしまうと私は嘘をつきました。窓の外から現れるのに矛盾はしていますが、陽光を浴び続けると焼けてしまうという設定にしました。それでも聞き分けなく私の手を引っ張るのです。


 そのときです。そのときに私の中の悪魔が、眠っていたはずの悪魔が、封印したはずの悪魔が、沈黙を破って現れてしまったのです。


 私に植え付けられた倫理と道徳のくさびは所詮その程度の強度だったのです。まるで煮過ぎた白滝のように容易たやすく千切れてしまうのです。そもそも出会った時点でそんなものは砕けていましたから、自制心などは働く余地がなかったのです。


 聖人であるならば、こんな煩悩など振り払うことができたでしょうか。ただ、残念ながら私は聖人ではありません。

 妖精なのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る