第2話
ハレムの一番奥は、王族の居室となっております。オスマン家に生まれた男子は、ここから出ることは叶いません。その時は、
メフメト様は私と大して変わらないのですが、十二の歳に譲位を受けて
「お前、マラ・ハトゥンのところの新しい女官だな」
生みの母親に会うことを許されなかったメフメト様を励まし、慈しみの手を差し伸べていたのは、他でもないマラ・ハトゥンでいらっしゃいました。帝国を率いる重責と、父王との軋轢に独りで耐えなければならなかったメフメト様、政治的な争いに囚われて、誰にも心を許すことのできなかったハトゥンが、互いのことをよりよく理解していたのは道理であるかと思います。ただ私にとってアウニは、いつも強がっていて、新しいもの好きな、このように申し上げてよいものか知れませんが、弟のような存在でした。
メフメト様はご自身の花壇で、世界中から珍しい植物を取り寄せて栽培したり、交配をおこなったりされていました。私の描く植物の絵を褒めてくださり、私はお庭のことを手伝うことを楽しみにしておりました。私には一つ、わくわくする考えがあったのです。
「柘榴を育ててみたいのですが。ハトゥンがお好きなのです」
いつものように、鷹揚に笑って下さると思っていたメフメト様が、眉根を渋められたので、私の気持ちもしぼんでしまいました。何か失礼なことを言ってしまったのかと、俯いて次の言葉を待っていると、静かな声が尋ねられました。
「ハトゥンは、柘榴をよく召し上がるのか」
「はい、丸ごと、食べてしまわれます」
そうか、とメフメト様はお手元の薔薇を撫ぜておっしゃいました。あのように草花にはもの柔らかな御手が、もう何人も殺しているなどと、誰が信じられましょう。あちらの聖母子に添えて描かれていることもあるがな、柘榴の果皮は古来より、薬であり、毒なのだ。
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