灯火(一)
キャンプ場で待っていると昼過ぎに
「柚莉ってば、長袖シャツとジーンズで来たんだ。いくら残暑がきついとはいえ、朝晩は冷えるだろう? だからオレのアウトドアパーカーを貸したんだ」
「助かったよ」
二人だけの会話ができていることに疎外感をもった。雪竹に嫉妬してるとわかっている。でも悟られないように振る舞い、キャンプ地へ案内を始めた。
「柚莉はキャンプしたことがないのか?」
「ないよ」
「そっか。テントの所までは足元に気をつけて。って、靴はいつものスニーカー!?」
「うん……」
「転ばないように気をつけろよ?」
山歩きに慣れていない柚莉は歩くのが遅い。オレが先頭で次に柚莉、最後に雪竹で進む。テントがある場所までは少し歩く。足場の悪い所があるから柚莉が気になる。
岩場に来て柚莉の足が止まった。足をかける場所に困っていたところ、雪竹が声をかけてきた。
「
「あ、ああ」
柚莉に手を差し出すと「ありがとう」と言ってつかんできた。手がふれてどきっとした。あわてて引っ張ると、思っていたより柚莉が軽くて、いきおい余って体がぶつかった。
「ごめん」
飛びこむように柚莉が胸に当たり、あわてて顔を上げてきた。至近距離に柚莉の顔がきた。こんなに近くで見るのは初めてだ。見つめてくる大きな瞳に吸いこまれそうになる。
「テントはあれ?」
雪竹がいつの間にかオレより先にいてテントを指している。あわてて「そうだよ」と返事して、柚莉をちゃんと立たせる。柚莉は「ありがとう」と言って気にしてないようだけど、オレは自分の鼓動がうるさいことに動揺していた。
テントに着くと荷物を置いて山を散策した。少し歩いただけですぐ暗くなったのでテントに戻った。
準備したテントに柚莉を迎えられてうれしい。LEDライトのランタンを光源にしてテントの外で雑談する。はじめは大学の講義の話をしていたけど、そのうち映画の話になった。
「柚莉がホラーを好きなんて意外だよな」
「それはオレも知らなかったよ」
「雪竹もか?」
雪竹も知らない柚莉のプライベートな部分がわかるだけでうれしい。ほかにどんな映画を観ているのか聞いていく。
会話の途中で雪竹が席を外した。離れたところで電話してたけど、申し訳なさそうな顔をして戻ってきた。
「ごめん、オレ、家へ戻るよ」
「えっ……」
「何かあったのか?」
「ちょっとね。用が済んだらすぐに戻るから」
「お、おい、雪竹!」
「大丈夫、立助。戻ってくるからさ、みやげを楽しみにしててよ。柚莉もね」
「う、うん……」
雪竹がすぐに駐車場へ歩き出したからついていく。
「本当に一人で大丈夫か?」
「大丈夫、オレは慣れてるだろ?」
「そ…うだった……な。でも気をつけろよ?」
「ああ。柚莉をよろしく」
「わかった」
ダレモ ミテ イナイ
何か聞こえた。雪竹か?
でもふり向かずに駐車場へ行く。気のせいか……?
テントへ戻ると柚莉が不安げに立っている。
「雪竹は慣れているから大丈夫だよ」
「うん……」
不安そうな表情は変わらない。外は暗いから不安をあおるかも。
「テントに入ろうか」
「ん……」
三人で使うつもりだったのでテントの中は十分に広い。オレは雪竹とキャンプした話や海での話をし、会話が途切れないようにした。柚莉が不安にならないようにしないと。
夜も更けてきて少し気温が下がってきてちょっと寒い。こんなときはウォッカだ。柚莉が驚いた顔をしている。あっ、説明が必要か!?
「キャンプに来ると雪竹と飲むんだ。もう二十歳だし問題ないよ」
「そ、そっか」
「柚莉も飲む?」
「ううん。まだ二十歳になってないから」
ちょっと残念。飲んだ柚莉がどうなるのか見たかったな。でも現状でも満足だ。こんなにたくさん話せているもの。
真ん中にランタンとお菓子などのつまみを置いて、ただ話をするだけ。それだけなのにとても楽しい……。
あれ? 柚莉の体が揺れている。眠たいのかな?
「そろそろ寝ようか」
「ん……」
もう聞こえてないみたいだ。「おやすみ」と言うと「おやすみ」と返してくれた。なんかくすぐったいな。
真ん中にあるランタンを消すと真っ暗になった。
柚莉は初めてシュラフを使うので、寝づらいのかしばらくがさごそしていた。でもそのうち静かになり、寝息が聞こえ始めた。心地よく聞いていたらオレも眠りに落ちていった。
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