無遅刻・無欠席「問題」
「あー、……こりゃ遅刻だな……」
なんてことはない、ただの寝坊である。
目覚まし時計をきちんとセットしたが、無意識に設定を解除していたらしく、スヌーズも機能していなかったようだ。
なるほど、だから起きれないわけだ……、
自力で目覚めた時間は、予鈴を越えて始業の二分前である。
今から準備をして向かったところで、家を出る前にチャイムが鳴るだろう……、遅刻確定だ。
どうせ遅刻をするなら、焦っても落ち着いても変わらない。二時限目が始まる頃に登校すればいい……となると、だいぶ余裕があるので気持ち的に楽である。
楽だが……、学校へいくモチベーションは依然変わらず、上がらない。
「都合の良い『夢』を見たせいもあってか、マジでやる気が起きない……」
見た夢を覚えている、ということは、自分勝手に作っていることだと聞いたことがあるが……だとしても興味深い夢ではあった――。
このまま寝転がってダラダラとしていても意識は覚めないだろうから、頭の体操がてら、ちょっと妄想してみようか。
夢の続きではないものの、夢の地続きではある。
全国の学生の大敵、遅刻と欠席だが、どうすればこれがなくなる……?
決まった時間に学校へいくのはなぜだ? もちろん、授業があるからだ……、
クラスの全員を集めて、決まった時間内に授業をするのであれば、当然、生徒が決まった時間に登校するのが最も楽だろう。
リモート、という方法が今ならあるが、教師側よりも、これは生徒側に不満が多くありそうだ。通信障害が起きて、自分のパソコンだけ調子が悪ければ、先生の授業を聞くことができない可能性もある……。
周りと同じペースで学ぶことができなくなってしまう。
学力を維持したい、上げたい生徒からすれば、死活問題である。
最初から成績など捨てている者からすれば、通信障害を言い訳にしてサボることもできるが……ただ、後で痛い目を見るのは自分である。
その上でサボっているのであれば、まあ、外野が言うことはないのかもしれないな……。
通信障害、という事故は、遠隔だからこそ起きる弊害である。
教室にいて、黒板を目の前にして授業を受けていれば、事故による中断も全員が体験することになる……、リモートとは違って、現場の変化は全員が共有するものだ。
授業内容が進まなければ、学力に差は出ないだろう……出たとすれば自習と復習の成果だろう。そこまでしている生徒は、事故などものともしないが――。
リモートではまだ不完全。
だからこそ、生徒は必ず出席をしなければならない――学校へ登校しないといけないわけだ。
すると必然、ついて回るのが、決まった時刻に教室へ到達できない『遅刻』と、そもそも学校にいけないという『欠席』である。
……ちなみに、俺は不登校ではない。学校へいくことが大事だと分かっているにもかかわらず、遅刻と欠席を繰り返してしまうのは――朝が早い、というだけだ。
……早起きを苦手としている俺からすれば、毎日がしんど過ぎる……、もう少し始業が遅くならないものかね。それか、遅刻・欠席が、『絶対にできない』方法を試してみるか――。
せっかく勉強に意欲があるのに、遅刻と欠席で差が開くのはもったいない気がする……――朝が早いというだけで。
朝、起きれないというだけで――、取れたはずの成績を落とすのは、お互いにもったいないのではないか……?
(教師側のメリットが、本当に生徒の成績アップなのかはともかく……、給料を上げるのか、それとも抱える生徒を減らすことで、仕事量も減らすのか……、それがメリットになる教師もいるのだろうし……。
『教師』という枠の中でメリットを決めつけるわけにもいかないか……)
ともかくだ。
夢で見たのは、とても現実的ではない解決方法だった。
だからあくまでも夢であり、妄想である……、これを実現させようとは思っていないし、万が一したとしたら――別の問題も浮上してくる。
先に浮上したのは学校なのだけど……。
つまり、
生徒が学校へ登校するのではなく、学校側が生徒の家の真上まできてくれれば――たとえば、寝たままでも、生徒をサルベージしてしまえば、遅刻も欠席もできないのではないか?
文字通りの浮上である。
まるで天空の城だ。
……そういうアニメ映画があった気がするが、その記憶が、こんな夢を見せたのかもしれない……。魅力的ではあるものの、しかし、とても現実的ではないし、科学が発達してもさすがに空を飛ぶ校舎はまだまだ難しいだろう。
たとえ浮き上がらせることができたとしても、万が一の不具合で落下でもしたら、町が崩壊する。そして一棟でも落ちれば、移動を繰り返す多くの校舎は、日々を脅かす最大兵器だ。
たかが無遅刻・無欠席を失くすためとは言え、そこまで命を懸けることはできないだろう。
学生だからこその不満だ。
大人は遅刻も欠席も許さないだろう……、だって遅刻と欠席を「するな」と言うのは先生であり、大人なのだ。そこは揺るがないはずである。
たとえ実現可能な妄想だったとしても、たぶん校則は変わらない。
これまで通りに登校をしろ、と言うはずだ……。電車にしろ、自転車にしろ、徒歩にしろ……自身の足で向かうことにも意味があるのかもしれないな……、運動も兼ねている?
帰宅部からすれば、授業以外の、唯一の運動の機会か?
確かに、それを奪われてしまえば、ぶくぶくと太るのはこっちである。
バランスの良い食事だけでは健康とは言えないのだ。
「ま、最大の問題は……、
仮に実現した浮遊する学校と……毎朝、定時刻にサルベージされたとして、だ――これだと理由を作れない」
遅刻、もしくは欠席の、だ。
寝坊をしても、始業に間に合うように登校させられるということはだ、当然だけど、遅刻も欠席もできないわけで……――『絶対に、できなくなる』のだ。
したくてもできなくなる。
サルベージしているのだから、
たとえ動けなくても登校できるだろ? と言われているようなものだ。
強制『無遅刻・無欠席』――、
今日は気分が乗らないからサボるか、と思ってもできないのだ。
これはこれで大問題である……。
なんだかんだで。
今のこの不便な生活こそが、俺たちにとって、『ベスト』なのかもしれない。
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