第23話 二つ名があったよ!
伯父の修羅場には興味ないけど、余計な八つ当たりはノーサンキューなので、平穏無事に過ぎる事を願っておこう。
「では、今度は私からのお使いだ。これをルーベンに渡してくれ。それから、お使いには駄賃も払わねばな」
そう言えば、今までのお使いは全部無料だったね。
家族や主人に賃金を払う発想は誰にもなかったよ。
流石は商売を成功させて来た侯爵家当主は、考え方が違うね。
いや、これは孫に小遣いをやる為の方便な気もする。
父とそっくりのデレ顔だもの。
銅貨~金貨までをくれたよ。
もしかしてセルバスに対抗してない?
大金貨もくれようとしたけど、流石にお駄賃の範囲を越えるから断ったよ。
そろそろお昼だし、午後から礼儀作法の先生が来るから帰ると伝える。
昼食を用意してあるからと引き留められ、午後の授業に間に合うように送り届けると言われたので、食べて帰る事にしたよ。
今日は礼儀作法は気にせず食べようと、庭を見渡せるバルコニーにアフタヌーンティーの様な軽食セットが用意された。
やはり上からだと素晴らしい景観の庭だね。
座っても見られる様になっているバルコニーは、卓球が余裕で出来そうな広さだ。
伯父は不参加で和やかな食事だから良かったよ。
僕が海産物を食べたいと言ったからか、キャビアのような魚卵がクラッカーに乗せられてた。
生憎と、前世でキャビアの味がわかる程の量を食べた事がないから、比べられないけど。
プチプチした食感は好きだと思った。
後はツナみたいな油に浸けた魚の身もあった。
ただしマヨネーズはないみたいで、塩とレモンの様な柑橘類で味付けされてた。
マヨネーズで金儲けが出来るかな?
でも生玉子は菌が問題だよね。
口元を祖母に拭かれながらの食事を終えて、ココアを飲んでいる。
ショコーラがあるならココアもあるよね。
ココアは正しくはショコーアだって…何だかな~。
そろそろ帰らないと授業に間に合わなくなるので、馬車までお見送りを受けたよ。
侯爵家の騎士が着いて来てくれたけど、そんなに危険な事なんてないと思う。
フラグじゃないよ。
案の定何事もなく家に着いたら、お土産をセルバスに任せて部屋に戻る。
授業の準備として着替えさせられる。
TPOに合わせた服を着ないとならないから、ホントめんどくさい。
「ヴィンセント様、ルブラン夫人がお見えになりました」
「ありがとう、カレン」
今日の礼儀作法は食堂で行う。
来客の対応や、逆に招待された時の対応を身分ごとに習う。
自分より上位の場合は、絶対に油断は許されないし、下位の場合は嘗められないよう失敗は許されない。
結局は完璧に出来なきゃ許されないって事だよ…
伯爵夫人であるルブラン夫人は、父の礼儀作法を教えた事もあるらしい。
父の場合はニコニコするのを止めさせるのに苦労したんだって。
その結果が氷の貴公子と言う二つ名だそうな。
何でも挨拶で笑いかけただけで勘違いした令嬢が、ストーカーになってしまったとか…
学校やお茶会で、婚約者気取りで付きまとわれたんだって。
もちろんキッパリスッパリお断りして、相手の家にも厳重抗議したそうな。
外では無表情になるようにした反動か、家族や好きな人の前ではデレデレになるみたい。
これが侯爵家の血筋だと今日知ったよ。
祖父母も基本はデレデレだった。
挨拶を完璧に出来るまで繰り返した後は、カトラリーの優雅な使い方や退席の仕方などを教えて貰うと、終了時間になった。
「ヴィンセント様は本当に優秀ですから、私も大変やりがいを感じております。来週はいよいよダンスが始まりますが、心配はしておりません。挨拶は今日の様になされば大丈夫ですわ」
僕の事は褒めて伸ばす方針なのか、良く褒められる。
褒められると伸びるから正しいやり方だね!
「ルブラン夫人、ありがとうございました。来週もよろしくお願いいたします」
「それでは、ごきげんよう」
流石は礼儀作法の先生をするだけあって、本当に上品な礼をするよね。
去って行く後ろ姿も美しいよ。
祖母も流石に元王女様だけあって気品があったけど、雰囲気が柔らかいからか、ビシッとしたルブラン夫人とは趣が違うんだよね。
今日の予定はこれでおしまいだから、部屋でいつもの服に着替える。
僕は洗濯物が増えるから、このままでも良いんだけど、王族の前でも着られるフォーマルな服だから駄目なんだって。
どうりでいつも以上にフリフリしてるし、刺繍もキラキラしてると思ったよ。
さて父は仕事だから帰って来るのは夜だろうし、今日の実験について考えてみよう。
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