第907話 おじさん、なんやかんやで巻きこんでいく


 お祭りを堪能したおじさんたちである。

 屋台の料理でお腹がいっぱいになった弟妹たち。

 

 おじさんたちは雑貨店で買い物もした。

 というか、だ。

 

 おじさんたちが寄る屋台は人であふれる。

 よって、無料になったのだ。

 

 初めての露店体験に満足したのだろう。

 弟妹たちはちょっと疲れてしまったようである。

 

 そんな二人のために、おじさんは一度屋敷に帰ることにした。

 ただし町中で転移をするわけにはいかない。

 

 おじさんたちは目立っているのだから。

 今や目をぎらつかせた屋台の店主たちが一挙手一投足を見守っている。

 

 侍女が睨みをきかせているので近寄ってはこないが。

 

 なので、オラシオがとっていた宿に向かう。

 その一室から、サクッと転移をした。

 

 弟妹たちはぐずることもなく、それぞれの部屋に戻っていく。

 よほど疲れたのかもしれない。

 

 家に帰ってきてホッとした感も表情に出ているほどだ。

 

「さて、戻りますか。スコル地区の禁足地が楽しみですわね」


「ええ。とても楽しみです」


 侍女と二人で笑いながら、宿の一室へと転移で戻る。

 その足で両親の元へとむかうおじさんたちだ。

 

 スコル地区の代表者たちが集う政務館へと足を運ぶ。

 侍女が先に入って、話を通すとあっさりと応接室に案内された。

 

 挨拶をして入るおじさんたちだ。

 そこには両親とオラシオ、それにスコル地区の代表たちがいた。

 皆が赤毛でヒゲがこわい。

 

 視線がおじさんに集中する。

 

「おお、救世主様か!」

 

「……」


 代表たちの言葉に無言になるおじさんだ。

 そして、父親とオラシオを見る。

 

 すっと目をそらす父親だ。

 その先には喜々とした表情のオラシオがいた。

 

 ……やってくれましたわね。

 

 そんなことを思うおじさんだ。

 どうにもオラシオは口が軽いようである。

 

「初めまして。わたくしがカラセベド公爵家長女のリーですわ」


 きれいなカーテシーでお辞儀をするおじさんだ。

 おお、と代表たちから声が漏れる。

 

「救世主とは大仰な。貴族の義務を果たしただけですわ」


 ニコリと微笑むおじさんだ。

 その笑みを見て、代表たちは黙ってしまった。


 笑顔に威圧されたのである。

 これ以上は突っつかない方がいい。

 全員がそう判断した。

 

「なにを仰います! あれほどのご活躍を……」


 あふん、と気を失うオラシオだ。

 父親が目にもとまらぬ速度で手刀を放ったのである。

 

 おじさんでなければ見逃しそうだ。

 いや、侍女も母親もしっかり見ていたが。

 

 代表たちの目には映らなかったらしい。

 ただ、黙らされたことは理解できた。

 

 その様子にあっけにとられている。

 

「サイラカーヤ。オラシオは気分が優れないようですわ」


 おじさんの言葉に頷く侍女だ。

 そのままオラシオを担いで退室する。

 

「さて、皆さん。禁足地へと赴くという話を聞きたいですわ」


 強引に話をまとめるおじさん。

 父親の隣に腰を下ろして、代表たちをじっと見る。

 

「そ、そうですな。その話をしておくべきですな!」


 あはは、と代表たちから苦笑いが漏れる。

 

「お父様、お母様。王国からの援助の話は?」


「ああ、もうだいたい終わったね」


「そうね。さすがスコル地区の代表たちというところね」


 父親と母親がニヤリと笑う。

 それに頷くしかない代表たちである。

 

 おじさんが入室してからというもの、完全にペースを握られている。

 そのことに気づきもしていないのだから。

 超絶美少女の存在感というのは、それほどのものだった。

 

「禁足地ということですが……それはどちらになりますの?」


 おじさんの言葉に、代表たちが顔を見合わせる。

 そして最もおじさんに近い位置にいた者が口を開いた。


「おらはビョルン・エングルドっちゅうもんずら」


 ふむ、と頷くおじさんだ。

 先を話してくださいなと視線で促す。

 

「ほいほい。禁足地は、ここクレイリから西の森ん中にあるんだ。わしらの古い言い伝えでな、そこの土地には古い神様がおわすんだと。森におる銀色の角持った鹿の血を、祭壇に供えるっていう儀式をするんだよ」


 信州弁のニュアンスに近いだろうか。

 おじさんが不思議な親近感を覚える口調であった。


「……なるほど。その銀色の鹿というのは?」


「さて、どう言ったらいいもんかね。神様の使いとも言われとるし、あるいは神様への供えもんとして森が産み出すとも言われとる」

 

「もう捕まえていますの?」


 おじさんの質問に首を横に振るビョルンだ。

 

「まだだねえ。いつも祭りの前の日には必ず見つかってたんだが、今回はまだ見つからん。銀の角持った鹿がいねえなんて初めてだ」


「……なるほど。では探してみますか」


 おじさんは思う。

 血が必要ということは、恐らくその鹿は殺されるのだろう。

 

 おじさんの前世ではこういった神事を野蛮だという人たちもいた。

 そう言いたくなる気持ちは理解できる。

 ただ、だからといって否定することはないと思うのだ。

 

 どっちが間違っているとかそういう話ではない。

 古くからの神事を現代的な視点で見ることに違和感を覚えるのだ。

 

 例えば饅頭の例がある。

 かつて川が氾濫すると、人を生け贄としていた地域があった。

 

 その話を聞いた諸葛孔明は、小麦で皮を作り、そこに挽肉を入れたものを人の頭に似せて捧げ物とせよと言ったという。

 結果、川の氾濫は収まり、人々は生け贄ではなく饅頭を捧げ物とした。

 

 伝統だからとなにもかもを正当化する気は毛頭ない。

 饅頭の例のように代替できるものがあればいいのだから。

 

 ただ――こちらの世界では神が実在する。

 そこが大きなちがいだと思う。

 

 だから――まずは探す。

 探した上でどうするのか決めたらいいと思うのだ。

 

 最悪、その古い神とやらと戦うことになる。

 そうなっても構わないという覚悟をおじさんは持っているのだから。

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