第17話 おじさん宝珠次元庫で物議をかもす

 おじさんが公爵家に戻った翌日のことである。

 妹を膝の上にのせて朝食を食べ終えると、父と祖父から声がかかった。


「リー、昨日言っていた宝珠次元庫の魔法なんだけど、実際に見せてくれるかい?」


 その頼みに快く応えるおじさんである。

 ただいくらこのお屋敷が広いといっても、さすがに室内では無理だ。

 ということで家族と使用人を引き連れて庭にでる。


 いきますわ、とおじさんが合図をした。


【宝珠次元庫・解放】


 トリガーワードとともにお手製のキャンピングカーが姿を見せた。

 “おお”と使用人たちから声があがる。


「これがリーの用意した新しい馬車か。中を見せてもらってもいいかい?」


 父の言葉におじさんは首肯する。


「どうぞ、ご覧になってくださいな」


 おじさんがキャンピングカーのドアを開ける。


「おねえさま!」


 父と祖父を筆頭に中へと足を運んでいく。

 妹と弟の手を引いて中に入ると、テンションが爆上がりであった。


「むっはー!」


 祖父が驚きのあまり上位貴族とは思えない声をあげる。


「こりゃスゴい! どうなっておるんじゃー!」


 “ほう”と冷静に辺りを見回している父親に、はしゃぎ回る弟妹たち。

 母と祖母はソファーに座り、侍女にお茶の用意をさせている。

 初見でなじみすぎている母と祖母は強いとおじさんは思った。


「宝珠次元庫というのは空間魔法を応用したのね?」


 宮廷魔導師筆頭の地位にあった祖母がおじさんに尋ねる。


「そのとおりですわ。最初は媒体なしでと考えたのですが、うまくいきませんでしたの」


「それで媒体として宝珠を使ったのね。うん、よくできているわ」


 母は魔道具の専門家である。

 宝珠を手のひらで転がしながら、しっかりと観察していたみたいだ。

 ちなみに宝珠とは魔物を倒すとでてくるアイテムになる。

 

 この世界ではなぜか魔物を倒すと煙のように死体が消えてしまう。

 消えたあとに残るのがドロップ品と呼ばれるものだ。

 ドロップ品には様々なものがあるが、宝珠もそのひとつになっている。

 ちなみにおじさんの持っている宝珠はすべて侍女に買ってきてもらったものだ。


「えい!」


 母は侍女のひとりに新しい宝珠をもらって魔力をこめる。

 どうやら自分でも試したくなったみたいだ。


「うん、成功ね。でもリーちゃんほど収納できる感じはしないわ」


 見本があるとはいえ、初見で成功させるのがカラセベド公爵家のクオリティである。

 おじさんは確かにチート持ちだ。

 しかし家族だって負けていないのが、カラセベド公爵家たる所以なのだろう。


「あら? じゃあ私も」


 祖母もサクッと新しい宝珠から次元庫を作ってしまう。


「なかなか難しいわね」


 と言いながらも笑顔の祖母である。


「お母様、どういたしましょう?」


 母が祖母に問いかける。

 おじさんが何の気なしに作ってしまったものだが、実は戦略級のアイテムだったりするのだ。

 なにせ宝珠次元庫があれば、輸送の概念が変わってしまう。

 今まで馬車が何台も必要だった荷物が、宝珠ひとつで持ち運べてしまうのだから。

 収納力の大きなものを作るのは大変だが、それだけの価値がある。


「これは売りにだせないわね。最初は国で管理すべきかしら」


「うむ。所有者登録は必須じゃな。勝手に使われてはかなわんぞ」


 祖母の言葉に祖父が同意を示す。

 父親もそれに同意のようだ。


「リー、手元にはいくつ持っているんだい?」


「この馬車と簡易拠点、それに露天風呂。あとは食材用のものがひとつ、雑貨用と予備もあわせて合計六つですわ」


 おじさんの言葉にカラセベド公爵家の面々は顔を見合わせてしまった。



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