第15話 おじさん野営訓練で令嬢たちと露天風呂を満喫する



 令嬢たちが喜々としている。

 右を見ても左を見ても、薄着の女性ばかりだ。

 ただおじさんにとっては娘のような年齢になる。

 どこか父性を感じさせるような目で、おじさんはその光景を眺めていた。


「あの……リー様」


 アルベルタ嬢がおじさんを見る。

 おじさんの外見は美少女なのだ。

 青みがかった銀色の髪を後ろでお団子にしてもらったおじさん。

 歴史に名が残るような芸術家が、命をかけて創作したようなかんばせがよく見える。

 女性的でありながらも、決して太いと思わせない絶妙なボディライン。

 それを隠すのは薄い布一枚なのだ。


 改めて見ると、それは凶悪なまでな美の暴力だった。

 おじさんがアルベルタ嬢と話しながら、露天風呂の縁に腰掛ける。

 その姿を見るだけで、令嬢たちは重い息を吐く。


 羨ましい……そんな感情を抱くことすら烏滸がましいと感じさせてしまう。

 それがリー=アーリーチャー・カラセベド=クェワなのだ。

 令嬢の中にはこっそりと手を組んで祈りを捧げるものもいる。

 自然とそうさせてしまうだけの美であった。


「ちょっと! な、なななによ、それ!」


 ツルペタストーンな聖女がビシッとおじさんを指さす。


「どうかなさいまして?」


「どうかなさいまして? じゃないわよ! なんなの、その胸部装甲は! 絶対に同じ年齢じゃないでしょ!」


「と言われましても?」


 おじさんは首を横にひねる。

 そう。

 聖女にそんなことを言われても、どうにもできないのだ。

 おじさんだって発育がいいなとは思っている。

 

「むきぃ! なんかなんかなんかズルい! ヒロインはアタシなのに!」


 聖女の言葉に違和感を覚えたおじさんである。

 しかし冷静にそんな話をする状況ではなかった。


「せ、聖女様もまだまだこれから成長なさいますわ?」


 アルベルタ嬢がナイスなフォローをする。

 しかし、である。

 そのアルベルタ嬢もまた年齢の割には女性的な身体つきなのだ。

 聖女とは比べるまでもない。


「あんたも勝ち組でしょうが!」


 社会的な地位という意味で言えば、聖女だって公爵家・侯爵家の令嬢と遜色がない。

 それだけこの国では聖女は重要な存在なのだ。

 だが女としての性的な魅力という意味では、聖女は完敗だった。

 逆にツルペタストーンが好きという男性もいる。

 ただこの国においては少数派であり、かつ異端でもあるのだ。


「うぬぬぬぬ! はっ! 毎日あんなに美味しいものを食べているからおっきくなったのね!」


 聖女が独りごちる。

 ここぞとばかりにおじさんは攻めることにした。


「では聖女様もこちらの班に合流なさっては? そうすれば同じ食事ができるでしょう?」


「はい、喜んで!!」


 チョロい聖女である。

 どこぞの居酒屋の店員よりも元気のよい返事だ。

 そんな聖女の様子を見て、アルベルタ嬢が苦笑する。


 ちなみにおじさんお手製の石けんとシャンプー・コンディショナーは、聖女を筆頭とする令嬢たちから大好評だった。

 その圧力はすさまじく、おじさんは商会にて販売することを約束させられたのである。

 


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