11-7

 お盆が近づいてきた日、ななのちゃんが


「私ね あそこのお肉屋さんにバイトに行くの 今度の土曜日とお盆の3日間 そのあとも土曜日」


「そう バイト出来るんか?」


「うん 学校の許可 まだ、貰ってないんやけど・・ おじさんに訳 話してね お金 貰わない 知り合いの子ってことにしてもらって お金じゃぁ無くて 商品券みたいなものにしてもらうの」


「ふーん 大丈夫なのか だまされないか?」


「あのさー おじさんって 良い人なんよ いつも おまけしてくれてるし 騙されてもいいって思ってる」


「そうか 良い人なんだよな じゃぁ 頑張れよ 初めてなんだろう? 働くの」


「うん 頑張る 笑顔でね」


 そして、その初めての土曜日、仕事帰りにのぞいてみると、ななのちゃんが声を張り上げていた。パンプキンみたいな帽子に髪の毛を包んで、マスク越しに長いまつ毛が見えていて、(今夜は 焼肉がうまい)と書かれた赤いエプロンにTツャシ、ショートパンツ姿。完全に店員さんになっていたのだ。


「お兄さん 今夜は焼肉ってどう? ビールと一緒に たまんないよ  今日 この特選焼肉がお買い得なのーよー」って、僕の顔を見ると普通に声を掛けてきていた。


「あぁ うまいかなー じゃぁ 200g」


「はいよ!  特選 200g おねがいしまぁーす」と、奥のおじさんという人に大声を出していた。すると、奥から「あいよー 特選200g」と、掛け合いがぴったりと・・。そして、「はい ありがとうございました また おねがいしまぁーす」と、可愛い声で返してきていた。見ると、僕には、べつに、おまけも安くもなんにもなかったのだ。だけど、ななのちゃんの特別の笑顔と別の顔を見た気がしていたのだ。


 部屋に帰って、早速、肉を焼いてビールを飲みながら、僕は気持ちを固めていった。あの子は気持ちが優しいし、頭も良いし、何にでも努力する。そして何と言っても・・・誰からも好かれるあの可愛いしぐさ。いうことないじゃあないか・・・。あの子を手放すなんて考えられない。もう、僕の中にも深く住み着いているんだ。別に、あのピチピチとした身体が欲しいわけじゃぁない。予約しておくわけじゃぁないけど・・絶対に手放したくないと・・・年は離れているけど、きっと僕を助けてくれるだろうし、癒してくれるだろう。

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