9-7

 ななのちゃんは春休みになると、殆ど毎日、お母さんが休みだという日以外は僕の部屋に来ていた。そして、僕の出勤前に来て、お弁当を渡してくれていたのだ。サッカークラブのある日は、自分の分も作ってきているんだろう。練習が終わると、リョウちゃんと公園で並んで食べているようだった。


「ななの 毎日 大変だろう お弁当 無理すんなよ」


「いいの! 私 楽しいから シュウが食べてくれるんだものー お母さんも了解してるからネ」


「そうかぁー 助かるけどなぁ」


「いいんだよ 私 こんなことしかシュウにしてあげれること無いモン」


 僕が、休みの時でも、ベッドに飛び乗って来て、まだ寝ている僕の布団の上で「起きろー」とドンドンと飛び跳ねてくるのだ。そして、僕にかまわず、空気の入れ換えと言って窓を開けてくるのだ。そして、僕が朝食を済ますと、テーブルの上に問題集を広げて勉強し出すといった具合だった。


 僕が仕事を終えて帰った時、ななのちゃんが元気が無くていつもと雰囲気が違っていた。


「どうした? 元気ないなー どっか悪いのか?」


「う~ん 昨日 お母さんと言い合いになってー」


「めずらしいネ 仲良いのにー」


「あのね 私 高校に行かないって言ったから・・ 泣いて 怒ってたの」


「そうかー ななのは 高校行かないで やりたいことがあるの?」


「うぅん 無いけど お母さんに負担掛けまいと・・ お母さん あんなに、働いて・・身体壊しちゃうよー お仕事掛け持ちしてるんだよー」


「だけど お母さんは負担じゃぁ無いって言ってるんだろー それよりも、ななのの成長が楽しみだって」


「そうやって ルリちゃんと 話したわけネ」


「・・・ななの すねてることじゃぁ無いだろう? 僕は、ななのにはもっと色んなことを勉強して、自分の可能性を見つけて欲しい。そのためには、高校にも行って大学も行けばいいんじゃぁないかと思う。君はそれだけの能力があるんだよ。そうしてれば、ななののやりたいこともみつけられるんじゃぁないかなー。それが、お母さんの望みでもあると思う。ななのがお母さんのことを思う気持ちはわかるけど、親孝行はななのがやりたい仕事に就いて、それからでいいんじゃぁないか? 今は、進学することが、一番のお母さんへの親孝行になるんじゃぁないのかなぁー お母さんはななののことを想って言っているんだよ ななのが可愛い娘だから ななのは頭が良いんだから、わかるだろう?」


「う~ん わかるけどなぁー・・・」


「お母さんは ななのが成績も良くって元気に過ごしているのが一番の楽しみだから頑張れるって言ってるんだよ お母さんもまだ若いんだよ 今は、甘えてて 大丈夫だよ」


「なぁ じゃあ シュウも時々は ウチに来て・・お母さんの様子も見ててネ でも あんまり近寄っちゃぁダメだよ」


「あぁ わかった 約束するよ」

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