5-7

「お母さんにね シュウのこと話したんだ クラブでお世話してくれているお兄さんだって 私 すごく、その人に親しみを感じるって」


「そうかい お母さんは何て?」


「何にもー それでね お泊りの話 私 行きたいんだぁーって お祭りの時」


「あっ そうかー 反対されたのかい?」


「うぅん 何にも言わなかった だけど、一度会ってご挨拶したいって」


「そうか 僕も 一度 会ってご挨拶しておいた方がいいのかなって思ってた」


 ある日、僕がグラウンドの木陰でお昼を食べて休んでいると、ななのちゃんが女の人と共にやってきて


「北番さん お母さん」と、紹介されたのは、Tシャツにスリムなジーンを穿いていて、サラサラした髪の毛が長い人。お母さんというよりお姉さんといっても通用するかというくらい若く見えた。


「ななのの母です。この子がお世話になっているというので、一度 ご挨拶をと思って」


「あっ」僕はその場で立ち上がって「いえ お世話だなんて」と、なんて言っていいのか、慌てていた。ななのちゃんは公園のほうに走って行ってしまった。


「あの子 去年あたりから明るくなって・・きっと、北番さんにお逢いしてからですわ あの子の感受性が強い時に、私 事情があって、構ってやれなかったの そんな時に、北番さんに出会って、きっと救われた気がしたんだと思います ありがとうございました」


「いゃ そんなー 僕は いつも一人で 絵を描いているし、丁寧な絵だったから 気になってしまって 最初は、お母さんに言われてるからと、知らない人とは話しちゃぁダメだって言われてしまって でも 素直な子で、徐々に打ち解けてくれて」


「あの子 お父さん居なくって・・ 寂しいんですよね 私 そんなこともわからなくって でも、私も 女一人で育てるのって辛くて 軽蔑されるようなこともやってしまっていて ごめんねって思ってるんです」


「そうですか でも 最近はお母さんとのこと 楽しそうに話してくれますよ」


「そうですか 私 仕事で帰り遅いんですけど、あの子、待っててくれて、ご飯とかお風呂も一緒なんです でも、北番さんのことも、すごく慕ってて・・ 今度は、北番さんのご実家に行くの誘われてて、すごく行きたいと言ってきたんです だけど、女の子ですし・・心配で」


「はい 誘ったんですけど・・サッカークラブに入ればって言ったのも僕なんです。でも、クラブではいきいきと走り回っているんですよ 楽しそうに・・だから、僕の地元の夏祭りなんですけど、僕の父母とか兄夫婦もいますし・・ななのちゃんが楽しんでくれればなぁって思っています 女の子だから、僕も、そのへんはわきまえているつもりですし、どうか、許してもらえないでしょうか へんな意味じゃぁなくて 僕はななのちゃんのことが大好きです のびのびと真直ぐに育っているのを見ていると嬉しくなります」


「私 北番さんには感謝しているんです 今日 お話できて、安心しました。私 お仕事お休みできなくって、夏休みでも、あの子をどこにも連れて行ってやれなくってー 母親としてはおかしいかもしれませんけど あの子、すごく、楽しみにしてるんです ご実家のほうに連れて行ってもらえるのなら、よろしくお願いします」と、お母さんは僕に向かって頭を下げてきた。


 その後、ななのちゃんを呼んで、一緒に坂道を下りていくのを見ていると、ななのちゃんはお母さんに飛びつくように抱きついていて、振り返って僕に手を大きく振っていたのだ。

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