第33話 夜会の庭で
ローヴァンは人気のない少々寂しい庭で佇んでいた。
見目麗しいフレデリックも婚約者役のミカエラもいないため、色とりどりの羽虫…もとい令嬢に囲まれてしまい、這う這うの体で逃げてきたのだ。
会場に近い庭でも待機している女性はいるので、ローヴァンは庭師小屋の近くまで来てしまっている。
シーズン最初の夜会は華やかだった。温室で育てられた大輪の花を飾った大ホールに、王家にお目見えが許された貴族はこぞって参列し、領地の自慢話や噂話に花を咲かせていた。
話の中には王子の領地訪問の件もあった。
突然の訪問を名誉と捉えた家、何かの嫌疑がかかっているのではと疑心暗鬼になる家…の主に二極化しているようだ。
「おや、こんなところで涼んでいるのかい? ランシア卿」
「…お久しぶりでございます。カーナボン卿」
「やはり高貴な場所は無頼漢な君たちには合わないのだろう? さっさと海に帰り給え」
しっしと追い払う仕草をする目の前の男はカーナボン伯爵の長男、ソウェルだ。
由緒正しい血筋だけが自慢の青年は、25歳になるがまだ妻帯していない。
他家を訪れても使用人に手を出そうとしたりと素行が悪いことで有名で、話がまとまらないのだ。
「そうですね。今のお話を母に伝えて帰路を取ることにしましょう。それでは」
ローヴァンの母は王妹だ。ならず者と一緒に括ることは王家に唾履く行為だ。
「待てよ!親の威光を借りるなんて卑怯だろ!」
「そう言えばあなたのその地位も親の威光でしたね」
さっさと踵を返し騎士ならではの速足で去っていくローヴァンを追いかけようとするが、鍛えることをせずふっくらとした体型のソウェルとの距離は次第に離れていく。
優雅な夜会では走ることはエチケット違反だ。そもそも重い体を揺らして走ろうなどとはソウェルは思っていないが。
「良い夜だな」
通路の正面にクリスヴァルト…第一王子が立っている。
ローヴァンは通路の脇に身を寄せ礼を取った。ソウェルも遅れてそれに倣う。
「随分急いでいたようだが」
「カーナボン卿に退室を勧められましたので帰途に就く所です」
通常は王族の前であからさまなやり取りを言いはしない。確執や火種を生むからだが。この辺りは海賊の血筋らしい傲慢さなのか、王族の血筋らしい尊大さなのか…。
「そうか」
クリスヴァルトは背後にいる護衛騎士を軽く見やり指示を出す。
「カーナボンの長男がお帰りだ。送ってくれ」
「⁉ 殿下! 私ではありません…そっちの卑しい…」
「ふむ、我が叔母上が卑しいと申すか」
「…! 滅相もございません…」
蒼白な顔面はダラダラと流れる汗でてらてらと光っている。
「身だしなみも乱れてしまったようだから丁度良かろう? サム」
「御意」
たくましい体格の護衛騎士サム—サムハインはふくよかなソウェルの体をものともせず引きずっていく。
実に無礼な送り方だが、彼の頭の中は王族に退場を命じられたことに対し、どう父に言い訳するか、周囲の噂をどうすればいいのかでいっぱいなのだろう。
ソウェルに絡まれている方がまだマシだった。
誰かがうっかりこの場所に入り込んでしまうまで(もしくは会話が終わるまで)この執念深そうな王太子と一緒ということだ。
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