第17話 クリス王子
「お呼びでしょうか、陛下」
ニコラスは息子2人を自室に呼び寄せた。
嫡子・クリスヴァルト 18歳
次男・クリスライン 16歳
2人とも父王譲りの柔らかな栗毛色の髪と、王妃譲りの葡萄色の瞳を持っている。
「ここだけの話になるが、渡り人様が亡くなっていることが判明した」
「まさかリーヴェルト家が?」
「いや…病死のようだ。だが彼女等が渡り人様を王都から遠く離れた寒村へ追いやったのだから同じようなものだろうが」
ニコラスは椅子に深くもたれる。
「渡り人様に護衛騎士との間の御子がいることも判明した」
「! では早急に王都へ…」
「クリスライン、それではかつての渡り人様と同様のことが起こる。今とある貴族の元に預けているから、その間に王都での下地を作らねばならないのだ」
「…申し訳ありません。早計でした」
弟のクリスラインはやや感情的で短絡な所があり、事を急ぎすぎて仕損じるきらいがある。
「渡り人様の御子の性別は?」
「女だ」
「それは困りましたね…。女性では側近として召し上げることは出来ないし、私たちには既に婚約者がいる…不慮の事故でも起こらない限りは難しいですね」
兄のクリスヴァルトは王太子として酸いも甘いも見てきているためか、冷淡で人を駒のように考えているところがある。
どちらも御子を任せるには少々不安がある。
クリスヴァルトの統治者としての教育が冷酷さを生み、クリスライン尾臣下となるべき教育が愚直さを生んだ。
頭の痛い話だ。
「不慮の事故は『起こさない』ようにしなさい。渡り人様なら例外的に助言役を設けても良い」
「助言役では退職する可能性がありますから側妃がよいのでは」
「”渡り人様が側妃”では諸外国から不満が出るだろうな。”ウチの国なら正妃にー”と横槍を入れられるぞ」
「貴族と言うわけではないから実際の所妥当なのですがねぇ…。使用人たちの管理や外交などの技能を養っていないのだから」
「渡り人様が持つ知識の方が価値が高いからな」
その辺りは心得ているようでクリスヴァルトは黙り込む。
クリスヴァルトが元平民の渡り人様を相手するには気位が高すぎるだろう。
「耳に入れておいてほしいのはそこまでだ。クリスヴァルトは来春結婚で忙しいだろう。もう戻りなさい」
「―はい では御前を失礼いたします」
体よく追い出されたことは明らかだが、クリスヴァルトは素直に応じて退室する。
(…会ってみてからどうするのか考えればよいか。どこに匿われているのか…探らせるか)
子飼いにしている優秀な偵察を使おうと、クリスヴァルトは自分の執務室へと向かった。
その頃クリスラインは何故自分は退室を命じられないのだろうと疑問に思いながらも、その後のことが推測できていた。
深いため息とともに
「やはりクリスヴァルトでは渡り人様を粗雑に扱い兼ねんな…。ここはクリスラインかその許嫁の”ご友人”としてまずは距離を縮めてもらおう」
「しかし友人になると言っても…」
「お前はこれから複数の領地を視察する」
「は?」
「旅程等は余が整えておこう。各地の運用状況を把握・報告すればよい。いずれかの場所に渡り人様がいらっしゃるが今は不用意に近づくな。後々『気になった』『好ましい』等理由を付けて呼び寄せればよい。そのための布石だ」
「…ただ各地を訪れ様子を報告するだけで良いのですね」
「そうだ。それ以上は動くな」
「拝命いたします」
ニコラスが去るよう手で示したのでクリスラインはようやく下がった。
(領地視察…兄上は忙しいから私が代理になって回る ということなんだろうな…。良い勉強になるだろうし、様々な家と友好な関係を築かないとな…。)
クリスラインはまだ見ぬ各領と渡り人に思いを馳せた。
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