黒幕の美学

みつぎみき

学園編

第1話 主人公では無い、黒幕だ。

「どうして……どうしてだよ!? あんた、どうしてに付いてんだよ! みんな……あんたを信じて……俺も……」

 かつてこの国の中心だった都は廃墟と化した。そんな中、黒髪のまっすぐな眼をした男は空へ吼えた。


 名を白崎、彼が睨む先には三人の男が立っている。

 空に、空中に床でも在るかのように立つ。優雅に、雄々しく、まるで総てを見下すかのように。


「白崎くん、君が知る私は偽りだ。これこそが私の本当の正体なのだよ」

「う、嘘だろ……嘘だと言ってくれ佐藤さん!!」

「佐藤……その名は捨てた、今は――天死てんし、そう呼んでくれたまえ」

「何が、何が天死だよ!? あんた何考えてんだ!?」


 白崎の怒りは必然。彼にとって佐藤は尊敬できる先輩であり、ともに地球に侵攻してくる敵――異種パゥレゥを倒す仲間であった。


 地球ともう一つの地球、それらを繋げるゲートが三人の後ろに開かれた。


「では、また会おう」

「待て! まだ話は――」

「今の、何も知らない君と話すことなど無い。知りたまえ、世界を……自分自身を」


 白崎を遮り、天死はゲートに入っていく。


「くそ……ちくしょおぉぉぉぉ!!」

 廃墟と化した都で、白崎の叫びだけが響いている。









 これより三か月前、佐藤は学園の屋上から新入生たちを眺めていた。

「ふむ、今年の生徒たちは何人残るかな……どう思う、戸塚くん?」

「はい、まあ……例年通りなら五十人くらいですかね? 俺の年は半数残りましたし、先輩の年は歴代最高の二百人残ってますからね」

「うむ、そうなると現在は歴代最高の人数がこの学園に居ることになるか」

「忙しくなりそうですね、生徒会として頑張りましょう」

「そうだね、だが気負うことは無い……僕や千堂くんたちがいる」

「はい! 頼りにします」


 和装着物の制服、上は白で袴は男が黒で女が赤だ。生徒会の面々は真っ黒な羽織をそれぞれ改造して着ている。

 佐藤はマントの様に羽織り、戸塚は改造せず着ている。


「さて、入学式が始まる。我々も行くとしよう」

「はい」

 二人は入学式が行われる体育館に向かった。




「白崎くん、どう? やっていけそうかな」

「ああ、まあ……実際にやってみねぇとな」

 体育館に設置されたパイプ椅子に座り、白崎と横に座る巨乳の女の子が小声で話していた。

 白崎は黒髪を無造作に伸ばし切れ長の目と野性味あふれるイケメンフェイス、これから高校一年としてやっていく割にはそう見えない長身と体格のデカさ。インナーを着ておらず筋肉質な胸元を見せつけている。

 隣の女の子は白崎の幼馴染で名を遠野とおの。長い茶髪をストレートに伸ばし、黒の薄い生地のインナーシャツと上着はデカすぎる胸を隠し切れず、赤い袴の横の切れ込みからはむっちりした白い太ももが覗かせる。女子にしては高い身長に細いモデルのような体格、しかし胸と尻は逆に主張する。可愛らしい顔は童顔で、体とのギャップがすごい。


「あ、始まるみたいだね……」

 遠野が壇上を見る。そこにはこの学園のトップ、学園長霧崎が居た。筋肉隆々の、白い髭がトレードマークな60歳くらいの大男だ。顔に一線の傷跡があり、歴戦の勇を匂わせる。


『諸君、よくぞ我が聖戦学園に入学してくれた! 君たちも知っているだろうがこの星は今、深刻な問題に直面している……異種パゥレゥだ。200年前に現れた彼奴等きゃつらはどんどん我らが領土を奪っていった。奴らが現れたところに発生する異空間ドームは武器や兵器はおろか、衣服すら消滅させる。生身で戦うしかない我々は一方的な蹂躙を受けた。しかし! 彼奴等の死体を元に作られた防具、武器を作った我らは反撃を開始し、現在6割の奪われた領土を奪い返した。君たちは、異能の素質がある……故に! この学園に入学を果たした。何人その異能に目覚めるかは解らん、が……君たち全員に高い志と覚悟があると信じている。この一年が君たちのターニングポイントだ、今残る先輩たちに続き、一人でも多くこの学園に残ってくれることを願っている』


 世界に八つある異能者を育てる機関、その一つが日本の山中に造られた聖戦学園だ。木造の大きい外壁、まるでお寺のような校舎はいくつもの区画に分かれている。外界からは隔絶され、中にはいろいろな店もある。寮は木造の塔となっていて、一階がロビーで、二階から上が男性寮、地下が女性寮だ。


 学園の制服も異空間に適応しており、これでなければ入った瞬間全裸になってしまう。


「――で、てめぇらは壱組だ。担任となる私の名は八雲。まあよろしくな」

 入学式が終わり、教室に連れられる。白崎と遠野は同じクラスであり、担任は黒髪をぼさぼさに手入れは無く、教師の着物を着崩している。ゆえにその遠野すら上回る爆乳をさらけ出されている。すこしずらせば先端が見えそうなほど。

 煙草を吸い、どう見ても教師ではない。


「まあ私はA級だ、これは世界共通のランクだからな。上から二番目だ、尊敬しろ」

「あ、あの……ランクがどう付けられているかなど知らないと評価が難しいのでは……あ、すいません生意気言って」

 八雲が教壇に座り足を組んでいる。そんなヤンキーみたいな教師に恐る恐る手を上げ発言するのは気弱そうな眼鏡の男の子だ。


 ニヤっと笑うと黒板の前に立ち、チョークで書いていく。

「まずお前らはよく知らんだろうが異種は大きく分けて二つに分類される――」

 獣型――地球の獣に似た、一回り大きく外骨格を纏う奴ら。外骨格は全身纏う奴から一部だけの奴もいる。外骨格が少ない奴ほど強い。

「ちなみに私たちの武器や防具、制服もこいつらの外骨格から作られてる」

 人型――まんま人間。全員が褐色で、多種多様なマスクを着けている。体に獣型の外骨格を身に着けている、またどいつもこいつも肌を露出させてる。

「人型、まあパゥレゥ人とも称される奴らだが……奴らにあったら逃げろ、逃げきれないイコール死だ」

「な、なぜですか?」

 また眼鏡が手を挙げて問う。


 煙草をいったん大きく吸い込み、白煙を全部出した後に声を低く語りだす。

「強すぎるからだ――最初は獣型だけだった、しかし人類が奴らに対抗する手段を手にしてから奴らは現れた……現れてから150年、現在討伐したのは僅か3人だ」

 ざわざわと教室内が騒がしくなる。

「奴らに勝てるのは世界で二人のS級のみ。A級は100人いて初めて一人の人型と戦える」


 そしてまた書き出す。

D級――異能を持ってる奴、一人で獣型を倒せない奴。

C級――一人で獣型を倒せる奴。

B級――一人で複数の獣型を倒せる奴。

A級――獣型が何体居ても問題なく倒せる奴。

S級――現在二人だけ。人型と戦える奴。


「私の凄さがわかったか?」

「A級は何人いるんですか?」

 今度は遠野が発言した。遠野の美貌に周りの男子が鼻の下を伸ばしている。

「……私を入れて、38にんだ」

「え? そ、それは……」

「そう、つまり現在はA級以下では人型と戦えないという意味だ」

 全員が理解した、世界がいかに絶望の上に立たされているかを。


「ちなみに二年以上は全員が異能に目覚めた奴ら、つまりは全員がD級以上だな。てか異能に目覚めることできなければ退学だしな」

 また書き出す。

 B級は三人――生徒会長の千堂。副会長の木村。風紀委員長の青木。

 C級は八人――生徒会会計の佐藤、同書記山内。あとは三年の奴。

「生徒会の奴らが殆どだな、三年で実力があって初めてC級になれるってところか」


 狭き門、それを超えてもまだ足りない。その現実を前に、すでに何人かの心が折れかけていた。

 全員が心にあった。『俺は特別だ』『選ばれし人間だ』『自分が世界を救う』と言う自負を。中学の時に学園のスカウトマンから推薦され、自尊心と覚悟をもってきた。それが、現実を前に折れかける。


「じゃ、まずは武器を取りに行っか」








「佐藤、何を見てるんだ?」

「これはこれは千堂生徒会長、今年の新入生の名簿ですよ」

 白崎たちが現実を直視するとき、佐藤たちは生徒会室に居た。

「名簿を? 面白い奴でもいたか」

「ええ、最初から目をかけていた子が入学してきたのです」

「ほう、お前ほどの奴がねぇ……女か?」

「男性ですよ」

 千堂は羽織を右肩に掛け、センター分けの黒髪にゴーグルを額に掛けている。このゴーグルは相手の異能の力を数値化できる代々生徒会長が受け継いできた物だ。

 佐藤は茶髪の天パで、眼鏡をかけた優男だ。温和な雰囲気を漂わせ、常に笑顔で丁寧な言葉使いの誰からも頼られる男だ。



(くっくっく……ついに、ついに来たか白崎! 俺が目をかけた主人公!!)

 内心の喜びを温和フェイスで隠し、柔和な雰囲気で考え込む。

 佐藤、彼は皆が思う人間ではなかった。これは表向きの、憧れたキャラに成りきるための演技だ。

 彼は幼少より憧れたキャラが居た。主人公を、メインキャラを、最強キャラを出し抜き、すべてのキャラを掌の上で転がす底の知れない男。


 そう、黒幕キャラだ。

 目指した、敵も味方も翻弄し……最後には主人公に討たれる者を。

 キャラ付のために笑顔に丁寧に、頭脳を磨き、異能を極め、部下を集めた。その集大成がついに、自身の黒幕物語がついに始まった。

(白崎、お前を鍛えてやる。最後に俺を倒し、世界を救わせるためにな!!)


 佐藤、自身の普通過ぎる名を嫌い普遍普通ありきたりを嫌う男。彼の異常を目指した厨二物語がいま幕を上げた。

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