第6話 現地人
複数の荒々しい足音が、草花を踏み潰し進んで行く。
「カシラ、この森に来る冒険者も、めっぽう減りやしたね」
小汚い男が、先頭に立つ巨漢へ話しかける。
「狩るもんがいなくなっちまったからな」
カシラと呼ばれた巨漢は、生え散った髭をボリボリと掻きながら蔦を切り飛ばす。
彼等は森の洞窟を拠点とし、モンスターを討伐しに来た冒険者を襲う盗賊である。
1年前にモンスターが消えてからは、森に訪れる冒険者が減り彼等も生活に困っていた。
今こうして移動しているのも、拠点を変えるための引っ越しというわけだ。
「はぁ、エルフでも攫うかな……あ?」
人身売買を考えるカシラの前に、見知らぬ大樹が現れる。
(?アルダの樹、じゃねぇよな。……ん?扉?)
周りの木と見比べるが、少し異なる。そして目に入る、人為的な痕跡。
「……てめぇら、久しぶりの狩りだ」
獰猛に笑うカシラの合図に、10人の部下が武器を引き抜いた。
――「何だこりゃ……」
扉を少し開き覗き込むカシラは、樹の中に広がる光景に唖然とする。
床、壁、天井、至る所に生えている、美しい花々。
それ以前に樹の大きさと中の広さが一致しないが、この世には空に浮かぶ島や、海の中に建つ国なんてのもある。
奇怪な魔樹があっても、なんら不思議ではないと考えた。
(こりゃあ、只の花畑じゃねぇな。魔花か?)
狩場に入った血肉を、根刮ぎ食い尽くす肉食性の植物。
花畑があれば警戒しろ、と冒険者はまず教えられる。
「……おい、さっき狩った兎よこせ」
「え、おいらの夕食……」
「うるせぇ早くしろっ。それともお前が代わりに入るか?」
「へ、へい!」
カシラは渡された兎の死体を、花畑に向かってぶん投げた。
すると、
「うわぁ」「えっぐ……」
地面に触れた瞬間大地が膨れ上がり、数10の細い根が踊り狂う。
根に群がられた死体は、貫ぬかれ、引き裂かれ、瞬く間に地面へと引きずり込まれてしまった。
(確定)
この場所は魔花の花畑だ。それも人為的に作られた。
素人が足を踏み入れればひとたまりもないが、生憎彼は元ベテランの冒険者であった。
そしてその対処法も、存外難しくない。
「火属性使える奴は来い」
「へい」「はい」
3人は掌に火の玉を作り出し、無造作に投げ入れた。
着弾、途端に炎は燃え広がり、魔花が苦しそうにのたうち回る。
火は樹形種にとって特攻。低級であれば松明でも殺せるのが世の常だ。
「んじゃ行くか」
「「「うす」」」
炎の道を悠々と歩いてく彼らは、この先に待つお宝に目を爛々と輝かせるのだった。
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