第18話 嫉妬③
「もうやめよう。この関係を」
言葉自体はするりと出てきた。
ただタイミングは今でよかったのかは疑問だが。
「な、なんでですか!確かに最近はできてませんでしたけど……」
「最近出来てないことが何で理由になるんだよ」
あっそっか、と由奈は呟く。
先ほどまでの俺に迫ってた時のハイライトが消えた目に再度、生気が宿ったように見えて少し安心だ。
「じゃあ…なんでいきなりやめるなんて言いだすんですか?私は全然やめる気なんてないですけど」
「なんでってそりゃあ……」
由奈とセフレの関係になったのは、知り合って半年が経ったころ。
その時には既に共通の趣味以外にも気の置けないバカ話だったり、俺の彼女関係の相談だったり、お互いにある程度近しい関係になっていたと自負している。
だから高校時代から付き合っていた彼女に理由も言われず振られて傷心中だった俺を、由奈は慰め会と称してご飯に誘ってくれた。
慣れない癖にやけ酒して泥酔し、由奈に介抱されながら店を出て気づいたらホテルに。
そこから先の行為自体はあまり記憶にないが、なんともいえない安心感に包まれたのは覚えている。
俺たちの関係が決定的に変わったのは翌日の朝、由奈から言われた言葉だろう。
「セフレになりましょ。先輩の心の傷が癒えるまでは」
「もうとっくに傷が癒えたから。最低な奴だと思うよ。やるだけやってやめようなんて。だけどいつまでも続けて言い関係じゃないと思うんだ」
これまでの経緯を思い出しながら俺は由奈にそう告げた。
由奈は一瞬考えるような表情をしたがすぐに思い出したのだろう。
俺の言葉の意図を理解してくれた。
「確かに私は先輩が立ち直るまでって言いましたよ。でもそれはただの目安なだけでそれ以降も関係を続けてもいいじゃないですか」
「なら由奈はまだ続けたいのか?」
「だからそう言ってるじゃないですか!だから誘ってるじゃないですか!だから大学まで追いかけてきたんじゃないですか!」
「うっ…」
2人の間に沈黙が流れる。
「と、とりあえず態勢を変えないか?流石にずっとこのままは喋り辛い」
「そうですね。すいません」
俺の言葉に由奈は立ち上がり押し入れから座布団を二つ出してくれた。
「でだ、話の続きなんだが」
「……はい」
「そもそもなんで由奈は俺にセフレになろうって提案してくれたんだ?普通に考えて高校生が、しかも女子から言えることじゃないと思うんだ」
俺はずっと気になっていた質問をぶつける。
普段の会話の中では聞き辛いが、この状況では答えてくれるだろう。
由奈は俺の質問にじっくり時間を取って
「私は…居場所が、安心できる居場所が欲しかったんです」
と答えてくれた。
「居場所?」
俺は由奈の言った言葉を無意識に反芻する。
しかし由奈は頷くだけで、それ以上言葉を紡ごうとしなかった。
「そのー、なんだ。安心できる関係なら”友達”でもいいんじゃないかって思うんだけど」
「私は男女の友情反対派です」
「あ、はい。すいません」
そんな一瞬で切らなくてもいいじゃないか…
「で、でもな?俺は少なくとも由奈が望む限り由奈から離れていくことはないし、今まで通りの関係でいられると思うんだ。一緒に飯食ったり遊んだりバカな話して笑いあったり俺は由奈との今の間柄は好きだぞ」
「私も今の先輩との関係好きですよ?」
「なら」
「でも駄目なんです。めんどくさい女だと思うでしょうけど私は先輩との関係にちゃんと名前が欲しい。それに…これは言ってなかったですけど」
「言ってなかったけど?」
「私の初めて奪ったの先輩ですからね?」
「…………………………はっ?!」
【あとがき】
いつも本小説を読んでいただきありがとうございます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます