愛すべき欠陥品たちよ(完結)

Unknown

第1話 心が動かなくなっても

 俺にはもう何も無い。伝えたいことも無い。酒飲んでタバコ吸ってるだけだ。夜は孤独で、昼も孤独で、ただひたすら虚無だ。生きてて楽しいことなんて無い。


 でもsyrup16gの新アルバムは最高だった。ずっとリピートして聴いてる。好きなバンドがあるのはいいことだ。アルバムのジャケットのTシャツを早速着ている。宇宙服を着た人間がかわいい。いい意味でsyrup16gらしくないジャケットで新鮮。アルバムの中だと「everything with you」と「うつして」と「maybe understood」と「診断書」と「Les Misé blue」あたりが特に好き。ていうか、全部好き。1枚のアルバムとして通して聴いてると凄く落ち着く。今作は結構しっとりしてる曲が多いと言うか、美メロを優しく聴かせる感じの曲が多い。昨日も書いたけど、再結成後のアルバムだと1番いい。copyやcoup d'Eatやhell seeやマウストゥーマウスにあったような若さ故の悲壮感から抜け出した代わりに優しさや包容感が生まれたアルバムな気がする。孤独な人のそばで寄り添ってくれるような新たな新境地を開拓したようなアルバムだと思う。つまり最高ってことだよ。


(どうでもいいかもしれないけど、俺はsyrup16gってバンドが大好きなんです)


 今宵は雨が降り注ぐ。アパートの中でも雨音が聞こえる。サッカーには興味ないから、W杯は見てない。俺は野球にしか興味ない。


 あなたの痛みを俺に分けてほしい。俺はもう自分のことは何も痛く感じないから。腕をタバコで焼いたって慣れれば痛くない。泣ける映画見たって泣けやしない。そもそも映画見る気力が無い。


 世の中、汚い人ばかりで嫌になる。弱った人間の心に付け込んで金儲けをする奴らが跋扈してる世の中だ。大人になればなるほど、死にたくもなる。俺は器用には生きられなかった。人と上手く喋ることさえ出来ない。


 統一教会のことも、ロシアとウクライナの戦争のことも俺は気にしてる。何度も書いたがウクライナに1000円寄付した。ロシア(というかプーチン)にむかついたから。絶対ウクライナに勝ってほしい。今もそれは変わらん。今後も変わらん。


 ニュースをぼんやり見ていたら、ウクライナ人のおばさんが泣いていた。ネットを見てたら、笑顔で自殺するロシア人の映像に出会った。


 どうして歴史は繰り返すんだろう。いつになったら馬鹿な人はいなくなるんだろう。そもそも俺は“歴史”という言葉が好きではない。誰かの血と涙を“歴史”って呼ぶから。


 なんだか、1人暮らしをしてる中で、あまりにも俺の心が動かなくて、死んでいくような気がして、少し困ってる。


 人間、無傷でなんて生きられないから、俺の事を傷付けて。あなたの傷を俺にも分けて。ああ俺は傷付ける価値すらないか。


 イヤホンでロックを聴きながらテレビのニュースをぼんやり見てると、笑顔の一般人たちが映って、俺は彼らに少し嫉妬する。なにかしら楽しい事がありそう。彼らが孤独じゃないように見える。でもそれは表層に過ぎなくて、きっと誰もが本当は孤独なのだ。


 俺だって昔は孤独じゃなかった。今も孤独じゃない。連絡を取り合う人はいる。今ここにだって、画面の向こう側に誰かがいる。


 だから孤独なふりはやめよう。孤独を気取るな。でも誰もがきっと心の中で孤独を飼ってる。だから先生、精神薬をくれ。


 人間は完璧な奴なんて1人もいない。誰もが愛しき欠陥品だ。


 俺だけが苦しいだなんて思ってない。みんな苦しいよな。


 でも基本的にはこの世の全てがどうでもよく感じている。悩んでも仕方ない事は悩まないと決めた。欲望や痛みを捨てた事で生きるのは楽になったけど、その分、喜びも消えてしまった。


 夜中にあくびしまくって涙が出ることはあるが、心が動いて涙を出すことは無くなった。判で押したような同じ毎日の繰り返し。心が動かない


 定職に就いていた頃もあったが、今となってはそれが信じられない。今年始めたwebライターの仕事はすぐ辞めてしまった。金融だのファッションだの俺の興味の無い分野の記事を書くことが苦痛だったからだ。


 真夜中に隣の部屋から音が聞こえてくると、まあまあ不愉快だ。俺はイヤホンを耳栓代わりにして眠るようにしている。


 睡眠用BGMとして好きな配信者の生配信のアーカイブを流しながら寝ることもある。


 俺は精神科で貰った睡眠薬を服用してるのだが、ほとんど毎晩ひどい悪夢を見る。それでゴミみたいな気分で目覚める。



 〜翌日〜



 今日は晴れていて暖かくて気持ちいい。


 季節はもう冬に近づいていて、アパートのベランダから見える木の葉っぱも色を変え、また、その多くが枯れて落ちた。まるで俺みたいだと思った。


 俺はこの一年で割と大きく変化した。


 一人暮らしを始めたのが一番大きな変化だ。


 障害年金を貰えなかったら実現してなかったから、日本の福祉のあれには感謝する。


 1Kで9.5畳の安い部屋に住んでいる。9.5畳あると少し持て余し気味だ。ぬいぐるみやベッドやパソコンやテレビやぶら下がり健康器やテーブルやグローブや金属バットや、その他諸々の生活用品がある。部屋には酒の空き缶が転がっている。


 ずっと一人でいるから、やっぱり寂しい。


 だからこうして今、毒にも薬にもならん文をネットに公開してるんだと思う。


 思春期的な絶望にも既に飽きてるし、もう暗いことは書かんでいいだろうと思ってる。


 かと言って希望を持ってるわけでもない。


 ただ、俺がここにいるだけだ。


 ひたすら虚無だ。


 そういえばバイトの面接をまた受けたけど、また不採用だった。馬鹿正直に精神科に通院してることや発達障害である事を明かしたのが敗因であると推察した。


 障害年金が月に65000円くらい?もらえるから、軽くバイトでもやれば、安めの正社員くらいの金にはなる。


 なんかの記事で見たけど一人暮らしって10万あればできるらしい。まあ贅沢はできないだろうけど、俺は酒とタバコと精神薬あればいいから、生きるのは簡単だ。長生きはしないだろうけど。別に長生きするために生きてるわけじゃないからな。


 なんて言ったら、余命宣告された人に失礼か。


 そういえば俺の祖父が入院した。彼はもう80歳だから先は長くないかもしれない。


 正直、それを悲しいと思えない自分がいる。あまり祖父のことを好きだと思えなかった。きっと葬式でも俺は泣けない。


 人は弱い。


 神にも頼るし、人にも頼るし、ロックンロールにも頼るし、愛にも頼るし、他人の言葉にも頼る。


 でもそれでいいんだと思う。完璧な人類なんていない。みんな愛すべき欠陥品だ。


 みんなで生きていこうじゃないか。


 生きてることの何が悪いんだ? 死ぬよりよっぽどいいよ。どんなクズでも生きてていい。俺だってクズだけど生きてんだから。


 ボーイズ・オン・ザ・ラン

 ガールズ・オン・ザ・ラン


 とりあえず生きろ……!!!!




 続く

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