第33話 決着ッ!!

 ーー頭大丈夫かアイツ?


 湊斗のおっぱい守る宣言に、ギャラリーである不良は一様に同じ感想を抱いた。

 

 この緊迫した状況、なんなら命が懸かっているであろう局面での『おっぱい』。

 あまりにも常軌を逸した湊斗の発言に、不良たちはある意味戦慄せんりつしていた。そして、


 な、なななななななに言ってんだミナトォ!?


 当たり前の話だが、一番動揺していたのはその『おっぱい』を持つ張本人の千聖だった。

 突如として自分のおっぱいについての言及がなされ、彼女は顔を真っ赤にしていた。


 う、ウチの胸とか……アイツマジでバカだろ!? つかウチの胸目当てとかマジでざけんなし……!

 あーもうほんっとに……!!


 湊斗のあまりのバカさ加減に心はぐちゃぐちゃにかき乱され、セットしていた髪もくしゃくしゃとかき乱す千聖。

 だが不思議と、千聖の心に巣食っていた黒い感情は徐々に消えていった。そして、


「……くっだらねぇ」


 そう言って、千聖は頬を緩ませた。



「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「うぉぉぉっ!!??」


 これまでの喧嘩に特化した練り上げられた技術ではない、力任せな創のタックル。

 俺は正面からそれをくらい、背中から落下する。


「ってぇ!?」

「うがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 狙いはメチャクチャ、おまけに力の入れ方もメチャクチャで力が分散してるため威力も低い。くらっても早々気絶することは無い。

 でも痛いモンは痛い。


「お前がぁ!! お前みたいなヤツがぁ!! 許さない許さない許さなぁい!!」

「ぎゃあああああ!? ちょっといったんストップゥ!? 痛ぁいたいたいたぁい!!」


 一応頼んでみるが、もちろん創の攻撃が止むことは無かった。


「俺は小学校の頃に助けてもらったあの日から、ずっと千聖ちゃんのことが好きだ!! この思いは誰にも負けない!! それに比べてお前はなんだ!? 胸だと……ふざけるなぁ!! お前みたいなカスにぃ、俺は負けない!! そしてぇお前のような変態を千聖ちゃんに近付けさせなぁい!!」


 ドカッ!! ドスッ!! ドンッ!!


 容赦なく、創は殴ってくる。だが、


「おっぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁっい!!」

「がぁ!!」


 俺は上半身を勢いよく起こし、創の頭に頭突きをかます。

 そしてそのまま創を引き剥がした。


「さっきから聞いてりゃよぉ、俺のちぃ思いがゴミみたいに言いやがってムカつくなぁ!! 俺は本気で千聖のおっぱいのことを思ってるぜぇ!! あのおっぱいを二回揉んだ俺の本能が訴えてんだ!! もっと揉みたいってなぁ!!」


 口に溜まった血を吐き出しながら、俺は言葉を続ける。


「てめぇがどんだけ千聖と付き合い長くても、どんだけ千聖のことが好きでもカンケーねぇ!! 勝つのは俺だぁ!!」

「アアァァァァァァァァ!!!」

「ぐぅ!? うおらぁ!!」

「がぁ!?」


 力任せな殴り合い。

 なんつーか、喧嘩より一つ下の泥試合って感じだ。


 叫んで殴って、叫び返して殴って、その繰り返し。

 互いに体力と精神力を消耗して、力尽きた方が負け。


 ーーそして、


「はぁ、はぁ……はぁ……!!」

「ぁぁ……はぁ、はっ」


 俺と創は息を切らし、互いを睨みつけていた。


「や、べぇ……。もう、限界だ……腕も、上がらねぇ……」

「そうか……。なら、俺の勝ちだな。俺はまだ、余力を残してる」

「はは、そーかよ……」


 よし、来い……!!


 創がこっちに向かい歩いてるのを見ながら、そう祈った。

 だが、創は途中で足を止める。


「……そして、お前がなにか卑怯な手を企んでるかもしれないという警戒心も怠らない……。お前が今吐いた言葉が嘘で、本当は余力を残していて、俺にカウンターで攻撃をキメる……その可能性があることを、俺は理解してる」

「……はは」


 ヤッベェ露見バレてた。

 今の殴り合いが逆に冷静にさせちまったか。オ◯ニーした後の賢者モード入った感じだな。


 なんてことを考える余裕があるくらいには俺も余裕……なワケがねぇ。

 マジで立ってるのが、やっとだ。

 だからよぉ……!!


「次に賭ける……!!」

「油断はしないと、言っただろ!!」


 そう言って、創は俺に殴り掛かる。

 カウンターを考慮した動き、このままでは俺は負ける。


「っ!!」


 俺は目を見開いた。



 湊斗は千聖救出作戦の第三段階、『喧嘩で創に勝つ』ため複数のプランを用意した。

 まずはプランA、砂で目つぶしをしてその間に攻撃、創を戦闘不能にするというもの。

 もしこれが失敗した場合、プランBに移行する。


 プランB、創の攻撃を誘ってカウンターで仕留めるというもの。喧嘩を長引かせ、体力と精神力を消耗させれば可能だと踏んだ案だ。


 そして、そのどれもが失敗に終わった場合——それは発動する。

 

 条件は二つ。

 創の体力と精神力がかなりの程度削られていること。

 創が湊斗に集中していること。

 

 これらの条件が揃い、初めてこれは成功する。


 ——プランC


『んじゃ、一応ルール確認な。目潰し金的なんでもあり』


 ——それは、


『なんなら大勢で掛かってきてもいいぜ。ちょうど後ろにてめぇの手下がたくさんいるしよぉ』


 ―—創の想定外からの、一撃。


「よっとぉ!!」

「がはぁっ……!?」


 突如として生じた、頭上の衝撃に創は混乱する。


 な、なんだ……!? 上から、なにか……い、一体なにが……!!

 

 思わず後ろを振り返る創。そこには、


「お前は、誰だ……!!」

「椎名司、そこのバカの友達ダチだ。よろしーくな!!」

「ぶふぉ……!?」


 司がそう挨拶したと同時に放たれた拳は、創の顎を正確に捉え、打ち抜く。


 ク、ソ……この、俺がぁ……!!


 体力と精神力をかなり消耗していた創にとって、この一撃は意識を失うのに十分過ぎるものであった。


 静寂が流れる。そして、


「しゃあああああああああああ!!!! 俺の勝ちぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」


 次の瞬間、湊斗の歓喜の叫びが倉庫中に響き渡った。



◇◇◇

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