第28話 不良の集会
「とりあえず不良たちの情報を整理すると、藍坂創はこの高校のトップに君臨していて、周辺の不良たちを制圧してるってことか」
「集会とかもやってるのウケるねマジで〜。今便利になってるんだからリモートでやればいいのに」
「リモートで集会してる不良は嫌だな……」
言葉を重ねる司と陽那。
「それはそう。ねぇねぇ、星名を助け出すってさ。要するに藍坂創と別れさせるってことだよね?」
「そういうことだな。どうするんだ湊斗?」
「いやどうすんだよマジで……」
司の問いかけに、俺は頭を抱えた。
「数秒前にあんだけカッコいい
「だってよぉ! 改めて言われるとムリゲー過ぎんだろこれぇ!!」
呆れたように言う陽那に、俺は反抗するように叫ぶ。
「別れさせるってことは藍坂か星名のどっちかをその気にさせなきゃいけないってことだよね?」
「まぁ簡単に言うとそうだな。けど星名の方は話を聞く限り無理そうだし、仮に別れる気にさせたとしても藍坂の方が黙っていないだろうな。唆した奴ブチ殺されるだろ」
「なら男の方を星名と別れさせる」
「根上、それができれば苦労はしないんだよ。だが、俺もそれしかないと思ってる。湊斗」
「あん? なんだよぉ……」
「俺は藍坂と直接会ったことがないから聞いた上での人となりしか分からない。実際に会って、言葉を交わしたお前なら、もっと迫った人物像が分かるだろ。正直、今回の突破口はそこにしかないと俺は思ってる」
「ンなこと言われたってよぉ……」
司の言葉に無茶言うなという気持ちだが、一応そこから考えてみることにした。
あの時の状況、そして創の言葉と行動を思い出しながら、俺は脳を回転させる。
——そして、
「……」
「なんか思いついたって顔だな」
「……あぁ。ワンチャンいけるかどうかって感じだけどな。陽那、集会ってのはどこでやるか分かるか?」
「うん、ちょっと待ってね~。えっと……立区のA倉庫だね。今日の放課後やるみたい」
陽那は気絶した不良のスマホを自身のタブレットを接続し、LINEの履歴を確認して言った。
「……よし。今から作戦を説明するぜ」
得られた全ての情報を元に筋道を立てた俺は、説明を始めた。
◇
同日夜。A倉庫
そこには多くの不良が集まっていた。そしてそこには……。
クッソ。どうしてこんなことに……!!
彼の名前は
ついこの前、湊斗と星名たちが町へ出掛けていた際に遭遇した不良である。
彼もまた阿久高校の生徒だった。
覚えている読者がいるか分からないが、雄我は中学時代、千聖に挑み完膚なきまでに敗北した。
そんな彼にとって、千聖が別の高校へと入学したのは僥倖だった。
これで自分が天下を取れる。そう思っていたのだ。
だがその目論見はあっさりと覆されることになる。
創の野郎……!! 中学の時は千聖の後ろを歩いてるだけのカスだったのに、なんであんな強くなってんだよ……!!
見違える変貌を遂げた藍坂創。
その鬼神のような強さは、瞬く間に阿久高校の頂点に到達するに至り、周辺の不良も恐れ
創の強さに魅せられ、彼を神のように崇める信仰者のような不良は加速度的に増加。
創は自身の地位を確固たるものにした。
勢力を拡大し続ける創。
創のことをよく思っていない雄我もまた、その大きな波に取り込まれた不良の一人だった。
今日開かれる集会についても、参加しているというのは雄我にとって屈辱でしかなかった。
にしても、今日はなんで招集を掛けたんだ? つい四日前にも集会はやっただろうが。
そう思いながら雄我が待っていると、
「整列!!」
幹部のそんな声に、雄我含めた不良たちは反射的に背筋を伸ばす。
次いで、倉庫の入り口から一人の人影が二人の人影が現れる。
カツカツと音を立て、二人の人影は不良たちの集団へと近いていく。
一人は当然、トップで藍坂創。そしてもう一人……。
な、なんでアイツが……!?
その人物に対し、雄我は動揺を禁じえなかった。
なぜならば、そのもう一人はこの前自身を無様に敗北させた女である星名千聖だったのである。
その動揺は、千聖を知る他の不良にも伝播した。遠くから阿久高校に入学した者を除き、千聖の存在を知らない者はいない。
だがそんなことを意に介すことも無く、二人は集団を通過。
そのまま高台へと上がり、彼らを見下ろす位置についた。
「今日はお前たちに伝えることがある」
端的に、そう前置きした創。
次の瞬間、彼は言った。
「俺はここにいる千聖ちゃんと付き合うことになった」
『っ!?』
またも不良たちに広がる動揺。
それは突然トップである創が集会を開き女と付き合うなどという宣言をしたからではない。
あの星名千聖に、男ができた。
その事実に驚愕しているのだ。
千聖と、創の野郎が……!?
中でも雄我の驚きは大きかった。
彼は知っていた。中学時代まで、創が千聖に守られていただけの弱い存在であったことを。
故に、創と千聖が恋人関係になることは衝撃以外のなにものでもなかった。
「これに伴い、千聖ちゃんは阿久高校の強力な戦力としても加わることになる。今後は周辺だけでなく、県外の不良も制圧し、勢力を拡大させていく。お前ら、覚悟はいいな?」
『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』
創の問いかけに、不良たちは腹から声を上げる。それはもう、倉庫が揺れるほどに。
「あの星名さんがいりゃあ百人力だ!」
「何人不良が来ようがカンケ―ねぇ!」
「こりゃあこれからが楽しみだ!」
雄我の周りにいた不良たちは口々に興奮した様子で口を開く。
なに喜んでんだよてめぇら……!! 勢力が広がろが、阿久高の名前が県外に広がろうが、それは俺たちの力じゃねぇ!! 強ぇ奴におんぶにだっこで、悔しくねぇのかよ……!!
周囲の不良たちの惨めさと情けなさに、雄我は怒りで拳を握りしめる。
だが直後、彼は気付いた。
——俺もか……。
自分自身もその大きな力の波に飲み込まれ、なにもできていない者の一人であることに。
対立する二つの葛藤、雄我はただその場で声を上げること無く、立ち尽くすしかなかった。
◇
しばらく聞いていなかった声、だが聞き慣れた声が、千聖の耳に入る。
自分が不良の世界に戻ってきたのだと、彼女は実感する。
一瞬でこの空気に溶け込めてしまう自分は、やはりこの世界の住人なんだと、理解させられる。
「……」
上を見上げ、倉庫の天井を見つめる千聖。
意味も無く、彼女は昔を思い出した。
◇◇◇
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