第21話 騒動前の一幕

「えっ、マジすごないミナト?」

「そうっすかね?」


 その日の昼休み。

 俺は珍しく星名から褒められた。

 なにをしたかというと、星名の爪にネイルをした。


「ウチが自分でやるのと全然違うんだけど。なんでこんな上手いん?」

「まぁ結構アネキの爪塗ったりしてるからですかね」


 ご存じのとおりアネキは超ズボラだ。自分でメイクができないので、メイクが必要な日は基本的に俺がやっている。ネイルはその一環だ。

 俺は服と一緒で美容関係も好きだからアネキのメイクは結構好きでやっているところもある。


「ねぇねぇ湊斗。ひょっとして、髪もいける?」


 と、そこで根上が俺の肩に顎を置きながらそう言ってきた。

 ちなみにだが俺は今星名のネイルマシーンと同時に、根上の顎置き場となっている。


「そんなムズい髪型じゃなきゃ大丈夫ですよ」

「じゃあ編み込みとかいける?」

「いけますね」

「じゃあやって」


 そう言って根上は空いてる椅子に座り、髪を差し出してきた。

 特に断る理由も無い。というかそもそも断る選択肢など存在しない。

 俺は根上が持っていたヘアメイクセットを借りて、彼女の髪をセットした。


「おぉ~すご。ガチの編み込みツインテだ。琴葉より全然上手いんだけどー」


 スマホのミラーアプリで髪を確認する根上。満足してくれたみたいでなによりだ。

 機嫌を損ねずほっと胸を撫でおろすが……。


「いや女子のメイクこんだけできるとかマジでウチらの立場無ぇんだけど。許せねぇわ」

「生意気ー」

「えぇ……(イケボ)」



「「ぎゃはははははははは!!」」


 十分後、俺は星名と根上に爆笑されていた。


「……」


 耐えろ、耐えるんだぁ……!!


 プルプルと肩を震わせながら、俺は必死にそう言い聞かせる。 

 今の俺の髪は、星名たちの手によってヘアゴムで適当にあちこち結ばれ、頭が鳥の巣みたいになっていた。


「どーだミナト? ウチらも中々うめぇだろ?」


 ンなワケねぇだろこのクソアマぁ!!


「あはは、そ、そうっすね。な、なんつーかこう……アバンギャルドな感じで……」


 出そうになる暴言を抑えながら、俺はなんとか無理やり褒め言葉を捻り出した。


「気に入ってくれて琴葉嬉しい。じゃあ今日は午後もそのまま湊斗」

 

 いやぁぁぁぁぁぁぁ!? ンなの耐えられぇん!!

 

 そう考えた俺は、少し離れた所からこの状況を見てる悪友たちに目を向け、アイコンタクトを送った。


『頼む!! 助けてくれお前ら!!』

『あいにくだが湊斗、俺たちにはどうすることもできん。それは、お前が始めた物語だろ?』

『そうだよ湊斗。それに逆境を越えてこそ、見えてくるものがあるんだよ』

『なにカッコつけたこと言ってんだてめぇらぁ!! なぁ頼むって!! どーしたら助けてくれんだよじゃあ!!』

『『金』』

『俺お前らと縁切るわ』


 あぉ神様、この世に救いはないのですか?


 心の中で手を合わせ、世界の不条理に涙しそうになったその時……。


「はは、なんか面白いことになってるな湊斗」


 そこに現れたのは俺が星名たちに生贄カレシとして捧げようとした男、翔真だった。その両隣にはクラスの同じくクラスの中心人物、雫と茜がいた。


「いやぁ、やっぱ湊斗くんって千聖ちゃんたちと仲良いよね」

「どこをどー見たら仲良いように見えんだよこれが……」


 雫のそんな言葉に、思わず本音がポロっと漏れる。


「あ? なンか言ったかミナトォ?」

「なんでもないデェス!」


 星名のギロリとした視線に、俺は背筋を伸ばした。


「てか一年の時って三人全然接点無かったような気がするんだよねー。仲良くなるキッカケってあったの?」

「……」


 瞬間、コンマ一秒で思考した俺は即座に結論を出した。


「ウン! マァイロイロアッタンダヨネ!」


 いやぁ、実は星名の胸揉んじゃってさ! 口封じのために仕方なくパシリしてんだ♪

 ……なんて言えるワケがねぇ!! そして下手な言い訳は余計に疑念を浮かばせるだけ。ここはボヤっと誤魔化すのが安牌あんぱいだ!!


「超片言じゃん。どした急に?」

「ナンデモナイヨ! ボクハダイジョウブ!」

「そのままなんかモノマネやってみて」

「ヤキタテノポップコーンハイカガ?」

「はははははは!!」


 ゲーセンに置いてある〇ティちゃんのポップコーン製造機の音声だが、どうやらお気に召したらしい。

 このまま話を少しずつ逸らしていこう。


「茜たちは一年の時から仲良かったのか?」

「まね。私と翔真は中学からの友達で、高校に入って雫と友達になってーって感じ。そしたら二人が付き合い始めてさー。中々肩身が狭いワケですよ。私も彼氏作ろっかなぁ」

「茜ってば毎回それ言ってるけど、全然彼氏作らないじゃん」

「だってビビッてくる人いなんだもーん」


 ふっ気持ちは分かるぜ。

 俺も今までビビッとくる女がいなかったから彼女ができたことがない。

 ……勘違いしないでほしいが、これは決して俺がモテないワケじゃない!!


 色んな所で毎回「面白いけど彼氏としてはちょっとなー」的なこと言われて、未だに童貞だけど相手が恥ずかしがってホントの気持ちを言えないだけ!! 断じて俺がモテないワケじゃない!! 大事なことなので二回言いましたぁ!!


 なんてことは口に出さず、俺は次の話題を提供する。


「雫はなんで翔真と付き合ったんだ?(お前と翔真が付き合ってるせいで俺の計画が崩れたぞ?)」

「なんかすごい当て字してない湊斗くん?」

「気にすんな。で、どーなんだ?」

「えーとね。茜と仲良くなってから絡むことが増えて、それでどんどん好きになって、私の方から告白したって感じかな……って、教室でこんなこと言うの照れるね」


 はにかむように笑う雫。その威力は凄まじく、今のでクラスの男子が大半逝った。

 あまりに正統派な美少女オーラに加え、あまりにも健全な恋愛エピソードに、俺も浄化されそうになるのを辛うじて耐える。


「へ、へー……そ、そういう感じね」


 何とか言葉を絞り出した直後、


「ねぇねぇ湊」

「ん?」

「試しに付き合ってみる?」

「ブフゥ!?」


 突然過ぎる茜の言葉に思わず俺は吹き出した。


「いきなりなに言ってんだお前!!」

「いやー、今話してたら彼氏けっこー欲しくなってさ。でもビビってくるの待ってたらいつできるか分からんじゃん? だったらこの際試しにてきとーに付き合ってみるのもありかなって」

「ンな実験道具みたいなノリで俺を彼氏にしよーとすんじゃねぇ!?」

「あははー。ごめんごめん。今のはちょっと言い方悪かった。別に私だって誰でも良いわけじゃないよ? 湊斗ならお試しでも付き合っていいかなって思ったの」

「え?」


 屈託の無い茜の笑顔。

 トゥンク……と俺の心臓が脈打つ。


 もしかして、これが恋……!?


 ギギギギギギギギ……!!


 間違いねぇ。なんかすごい勢いで頭に血が昇ってる感じするし、身体に力が入らなくなってきた。

 きっと恋の力だ。恋に落ちて身体がおかしくなったんだ。

 すげぇな恋って!!


 ギギギギギギギギ……!!


 いや、でもおかしいな? 普通恋って胸が苦しくなるんじゃねぇの? 今どっちかって言うと首が苦しいんだけど……。

 

 ――つーか……。


 ギギギギギギギギ……!!

 

 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!! これマジでくヤツゥ!?


 もがくように首に手をやると、そこにはとんでもない力で巻き付いた腕があった。


「ミナトォ?」

「いぃ!?」


 背後から聞こえるドスの利いた声。そして背中に感じる推定Fカップ以上のOPPAI。

 俺は星名に首を絞められていることを認識する。

 

「なんだよその顔? まさかホントに付き合うワケねぇよなぁ? お前はウチらのパシリだもんなぁ?」

「も、モチロンじゃないっすかぁ星名さん……」

「うし」


 解放された瞬間、反射的に俺は大きく息を吸いこんだ。

 あぁ、空気ってこんなに美味かったんだ。


「ふふ」

「ンだよ茜?」


 俺が空気の美味さを実感している横で笑う茜に対し、星名が口を開いた。


「いや別にー? 千聖も意外に女の子だなって思ってさ」 

「意味分かんねぇ」


 俺も才川の言葉の意味が分からなかった。

 どう考えても星名は女の皮を被った討伐難易度Sクラスのモンスターだ。


「湊斗。やっぱお試しの話は無しってことで」

「お、おう」

「あれ? なにその感じ。ひょっとしてちょっと私と付き合ってみたかったりしたー?」

「はっはっは! 冗談を言う時はもっと相手のことを考えてくれよな茜! 俺の命がいくつあっても足りないぜ!」


 ニッコリと笑いながら命を刈り取る形をした手の動きを見せる星名を視界にとらえながら、失禁してしまいそうな恐怖に駆られながらそう答えた。


「くっくく……!!」

「ちょ、ちょっと笑っちゃダメだよ司ぁ……ぶふぉ!!」


 ……てめぇらあとで覚えとけよぉ!!


 そして俺が死線をくぐってる中、遠くからこの光景を見て笑っている悪友二人に対して報復を誓ったのだった。



◇◇◇

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