第8話 え、お前マジで言ってる?
結局その後、バスケは星名&佐鳥チームの勝利。
俺の足を引っ張るプレーが才川によって何度かリカバリーされてしまったものの、総合的に言えば俺はきっちりとチームの敗北に貢献することができた。
「やったな星名。まさかあんなに動けるとは思ってなかったよ」
「そっちも。けっこーやるじゃん」
おぉ……星名と佐鳥が互いの健闘を称え合ってる!!
「うぅ……!!」
「だ、だいじょうぶ束橋くん?」
「さっき笑ってたのに今度は泣き出したね。どしたー? 負けて悔しかった?」
「いや……負けた甲斐があったなあって思って……!」
『どゆこと!?』
よぉし!! 星名と佐鳥の距離は間違いなく縮まってる!!
あ、そうだ。そういや根上の方は……。
「ぉぉぉぉぉぉ……」
……うん。今回はアイツは無視でいいな。
よく考えてみたら、二人とも佐鳥のことが好きになるとメンドーだし。
ゾンビのように呻き声を上げ、床へうつ伏せになっている根上を見て、俺はしみじみとそう思った。
◇
バスケが終わり、次はダブルスでテニスをすることになった。
なぜダブルスなのかというと、根上がしばらく激しい動きはしたくないという理由で三対三のゲームができないからだ。
というワケで、今回のチーム編成は俺のルーレットアプリによって……。
「また佐鳥とかよ」
「はは、二回連続か」
星名はもちろん佐鳥と。
「よろしくね」
「よろしくな。咲宮」
そして、俺は咲宮とチームになるようにした。
妨害役の俺が参加するのは必須として、ダブルスの相方として咲宮を選んだのは、さっきのバスケで才川がかなり運動ができる奴だったことが判明したからだ。
見た感じ咲宮も中々動けてはいたが才川をダブルスに入れるよりはマシという判断である。
これが星名たちに勝利を
「ねぇ束橋くん」
「ん?」
と、そこに再び咲宮が声を掛けてくる。
「調子が悪かったらすぐに交代していいからね?」
「はは、なにを言ってるんだ? 俺はずっと絶好調さ!!」
なぜか心配そうな表情でこちらを見る彼女に、俺は親指を立てて応えた。
「どっちも頑張れー!」
「イス冷た。キモティ」
その後流れるように、観戦者として俺たちを応援する才川と完全に休憩モードに入っている根上の声がBGMとなって、ゲームは始まった。
◇
約二十分後、ゲームは俺たちの大☆敗☆北によって幕を閉じた。
「うっし!」
「ナイススマッシュ星名。綺麗に決まったな」
そう言って、佐鳥は星名の前に手を差し出す。
ま、まさかアレは!!
佐鳥のその動きに、目を見開いた俺は、恐る恐る星名の方を見た。
「……」
無言の星名。だが直後、彼女もまた佐鳥に向かい手を伸ばした。
パシィ!
互いの手が合わさり、軽快な音を立てる。
俺と才川がやったのと同じ、ハイタッチ。
星名の方が大分素っ気ないが、その光景はまさに、互いの健闘称え合う仲の良い男と女と言って差し支えの無いものだった。
(実況)いやぁ、もうあの二人イクとこまでイッちゃうんじゃあないですか? 解説の束橋さん。
(解説)間違いないですね。あの態度、メスの部分がドンドン出てきてます! 俺に対する態度とは大違いです!! もうこれならあとチョロっと背中を押せばコロっとイキますよあの女ァ!!
もはや付き合うまで秒読み。
俺は脳内でふざけたコントをする余裕も生まれていた。
「いやぁ、やっぱ強いねあの二人」
「そうだなー(棒)」
そして、やり切ったように星名たちを讃える咲宮に対し、俺はニンマリと笑いながら同調したのである。
◇
そのあとも色んなスポーツやゲームで遊んだ。
途中から別にチーム戦じゃなくてもいいなっていう話になり、個人技のバッティングとかアーチェリーとかもやった。
本当なら星名と佐鳥を同じチームにして協力させるために個人技のスポーツはできるだけ避けたかったが、却下する言い訳などあるワケも無く俺はそれらを受け入れるしかなかった。
……しかし、タダでは転ばないのがこの俺。
個人技スポーツの中に、IQ1000を超える俺は可能性を生み出した。
その軌跡を、少しだけご覧いただこう。
File1.ローラースケート。
ここだぁ!!
専用の床の上をローラースケートで縦横無尽に走る中、星名と佐鳥の距離が物理的に近くなった所を狙い、俺は小石を指で弾いて星名のローラースケートの車輪へと当てた。
「うわぁっとぉ!?」
バランスを崩し、倒れそうになる星名。
「危ない!!」
そこを間一髪、佐鳥が身体を支えて救ったのである。
「……あんがと」
「気にしなくていいよ。それよりも無事でよかった」
俺の完璧なアシストにより、怪我しそうになった女子を助ける男子というシチュエーションを作り出すことに成功した。
File2.ビリヤード
「おっと足が滑ったぁ(棒)!!」
玉を打とうと構える星名に向かって、俺はそう言いながら激突した。
「わぁっ!?」
突然のことにバランスを崩す、横へすっ転びそうになる星名。
「っと、大丈夫か星名?」
それを助けるのはもちろん、奴の隣にいた佐鳥だ。
「なんとか……ってミナトなにしてんだよ!!」
「すみませぇん!!」
星名に頭を叩かれながらも、俺は奴を佐鳥と密着させることに成功した。
なぜこんなことをするのか。
これは俺の知り合いで色んな男を食い漁ってる女友達がいるんだが、ソイツは言っていた――身体的密着は、心の距離も近づけさせるのだと。
先人の知恵とはまさにこのこと。
なのでそのアドバイスにあやかり、俺はアイツらを物理的にくっ付けたのだ。
スポーツの協力プレイと、アクシデント(ヤラセ)による物理的接触の二重奏。
……ふっ、勝ったな。
勝利を確信する俺。
こうして、時間はあっという間に過ぎていった。
◇
ラウンダーワンで一通り遊んだ後、今日は解散という流れになり、俺たちは雑談しながら駅の方へと向かっていた。
「いやぁ楽しかったね!」
そう言って、才川は伸びをしながら満足そうな表情を見せる。
時刻は19時を回りそうになっており、太陽は既に沈み、街灯が周囲を照らしていた。
「うん。星名さんたち意外とノリ良いし面白いし、また遊びたいな」
「あぁ?」
「あはは、ダメ?」
「別にいいけどよぉ」
「琴葉もー」
「やった♪」
二人の返答に、咲宮は嬉しそーな顔をする。
「じゃあさじゃあさこれは私からのお願い! 名前で呼んでもいい?」
次いで、才川がそんなことを言い出した。
「ンなの許可取る必要ねぇだろ。勝手に呼べよ」
「それなぁー」
「……」
星名と根上の返答が意外だったのだろう。一瞬、面食らったような顔をする才川。
が、すぐに彼女は笑顔で言った。
「それもそっか! じゃあよろしくね。千聖、琴葉!」
そんな光景を、俺は白けた目で見る。
なぜならとてもどーでもいいからだ。コイツらの距離が近くなってもなんの意味もねぇ……!!
おい、お前が行かなくてどーすんだよ!!
俺は視線を移して、特に動きを見せない佐鳥に目をやった。
「……」
こっちの視線に気が付いたのか。佐鳥と目が合う。
行けぇ……!! 行けぇぇぇぇぇぇ……!!
必然と込められる、圧倒的な熱と意思。
こんなに込めるのは普段だと青保留(パチンコ用語)の時しかない。
一瞬思案する佐鳥。
コイツはかなり期待度の高い演出だ……!!
頭の中で激熱ゾーン突入音が流れる。
イッケェェェェェェェェェェェ!!!
「じゃ、俺のこともよろしく」
イケメンにしか許されない笑みと言い回しが佐鳥から炸裂。
ギュィィィィィィン!! デレレレレレレレレレェェェッ!!!(大当たり音)
っしゃおらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
俺は内心で超絶喜び、拳を強く握って小さくガッツポーズをする。
まさか青保留からの大当たりとはな(湊斗が勝手に設定してるだけです)。
リアルでパチ打ってても今までこんなことは無かったぜ。
にしても……。
喜ぶのも束の間、俺はもう一度佐鳥の方に目をやる。
クソ……やっぱイケメンだなコイツ……!!
そこら辺の野郎が同じシチュで同じことしたところで、間違いなく女子はドン引きする。
それをさせない佐鳥のイケメンっぷり。
佐鳥と星名たちの距離が近くなったのは良いが、それとこれとは別問題。
やっぱりコイツの
「もちろん、
「え?」
と、そこで唐突に才川に呼ばれた俺は我に返った。
「えーと、なにが?」
「なにってこの流れだったら名前呼びしかないじゃーん」
「あーそれね。オーケー分かった任せろ」
「メチャメチャ心ここにあらずじゃない?」
なんて会話をしながら、駅に到着した俺たちはそのまま六人で改札を通過した。
あとはそれぞれ自分の家の方へ行く電車が停まるホームに行くだけだ。
一瞬、
(都合よく佐鳥と星名だけが同じ電車で、
なんて期待してはみたが……、
「じゃあまた明日……じゃないまた来週! 行こ、根上さん!」
「うい」
根上は才川と、
「またねー。私たちも行こっか星名さん」
「あいよ」
星名は咲宮と同じ電車で帰るみたいだ。
ーーそして、
「俺たちも行くか」
「……おう」
よりによって俺と
そう叫びたくなるのをなんとか抑え、俺と佐鳥は駅のホームへと向かった。
◇
駅のホームに到着した俺と佐鳥は、五分後にこのホームに到着する電車を待っていた。
「……」
「……」
気まじぃ……!!
そんな中、俺は素直にそう思った。
こりゃあアレだな……大して仲良くもねぇ、なんもワリィことしてねぇ
……いや、この場合罪悪感だから引っ張られてんのは心か?
などと考えていると……。
「なぁ、一つ聞いてもいいか?」
突然、佐鳥が俺に話しかけてきた。
「おう。なんだ?」
意外に思いながらも、この気まずさから解放されると思った俺は、どこか安心混じりに尋ねた。
ーーが、
「お前、俺と星名をくっつけようとしてるだろ」
「……うぇ?」
佐鳥から放たれたのは、そんな一言だった。
◇◇◇
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