非凡な二人
怪異によって破壊された校舎とグラウンドは《等価交換》によって元通りになった。
「せっかく食べたのに、これでだいたい使い切っちゃった」
美玖は残念そうに言う。教室の素材――瓦礫ではあったが――は残っていたのだから、支払う対価はもっと少なくてもよさそうなものだが、実際にはそうも燃費がいいわけではないらしい。それはやはり、人間では行えないことを行っているからなのかもしれない。
「もしかして、これでお別れ?」
みづほの怪異は祓われた。それは同時に、みづほの事情が解決したことを意味する。道宮達とどう向き合っていくのか、それはみづほの問題だ。美玖や真知が関与することはない。
そこまで解決を要求するなど、怠慢にも程がある。所詮、みづほの人生はみづほのものだ。困難に直面し、懊悩に苛まれたところで、彼女だけで対処しなくてはならない。
今回は特例。たまたま手助けしてもらえてよかった、くらいのこと。
俯いたまま、今にも泣き出してしまいそうなみづほを見つめ、真知は苦笑交じりに答えた。
「まだ、僕の姿が見えているんだろう? 先輩は人間の部分を残しているから別として、僕は怪異そのものだ。それが見えているということは、キミはこちら側に片足を残したままだ。店にだって来られるはずだから、望むならそうすればいい」
「また目を晴らして欲しいなら、やってあげるわよ」
そう言って、キスをする素振り。みづほは思わず両手で目を隠し、微笑を浮かべた。
「また、行きますね」
「そうしてもらわないと。うやむやなんてダメよ?」
「うん、ちゃんと払うから。今だけは甘えさせて」
踏切を下った先、小高い丘の麓にある細長い空き地。荒れ放題のその場所には、普通の人間には入ることができず、見ることもできない喫茶店がある。
もしもその店が見えてしまったなら、要注意。それは普通ではなくなりつつある前兆だ。
けれど、そこには《怪異殺し》がいる。
扉を開ければ、黒髪の青年と金髪の少女が迎えてくれる。
第一声は平凡に「いらっしゃい」と、非凡な二人は言うだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます