第11話「豚令嬢」
アンリエッタの呪いを解いた一方、低カロリーメニューを伝授したミネルバの方だが、その後俺は低糖質パンの開発に成功した。この世界はパンが中心なので益々効果が出そうだ。そんな俺の期待にミネルバは応えてくれた。
「ごきげんよう。ディゼル様」
「こんにちは。ミネルバ」
低カロリーメニューを導入してから半年間。
俺とミネルバは月に一回か二回会う仲だが、ミネルバが会うたびに段々痩せてきているのを毎回感じていた。
半年も経った頃にはすっかり美少女に変貌した。
全体的に痩せたが胸は膨らんだままだ。
先日の舞踏会で着飾ったドレス姿を見た時は本当に驚いた。
何人もの貴族の子弟から声をかけられていた。
そんな中で誰も相手にせずに俺に話しかけて来るもんだから俺はいろいろと嫉妬の視線を受けたものだ。
「ありがとうございます。ディゼル様」
そんなミネルバに急に頭を下げられた。
「何のお礼?」
この前さらに新メニュー開発できたと言っていたがあれはもうミネルバの家で独自開発したものらしい。俺の低カロリーメニューは低糖質パンが最後だ。あとはエクステル家で食品開発チームなるものができているそうだ。
「私のこの姿です。私がこんな体型になれたの。ディゼル様のおかげです」
体型に対しての礼だった。
「食べ続けても太ると言われても私は食べるのが生きがいです。太ってもいいです。ずっと食べ続けて生きて行こうと思っていました」
初めて聞くミネルバの自分の体形への考え方。
ただ食べているだけの子かと思ったが、ちゃんとした理念のもとで太っていた。
「だからずっとどこにも嫁がずにすむ方法を考えていたんです」
「結婚する気はなかったのか?」
「だってあんな豚みたいなのと結婚しようだなんて思わないですよ」
豚の自覚はあったんだ。というか過去の自分を「あんな豚みたいなの」呼ばわりできるとはなんだか凄い。
「だからメリルレージュ様についていけば食いっぱぐれることはないと思っていました」
そうだったのか。そこまでしっかり考えていたのか。
まあ、実際はあのままだと悪役令嬢と共に悪逆非道の限りを尽くした揚句断罪されることになってしまうわけだが。
「でもちょっと困った事があります」
「どんなこと?」
痩せたことで何か弊害でも起きたのだろうか。
「昨日の舞踏会で何人かから声をかけられました」
それは知っている。でもそれはいい事ではないのだろうか。豚令嬢から美少女に変わったのだから。
「こうなると私もどこかに嫁がないといけないですね」
「それって駄目な事?」
むしろ結婚できるようになって良かったのではないだろうか。このままだと結婚できないと思っていたわけだし。
「私は全然結婚するイメージがなかったです。どこかの家に嫁いで正妻としての務めを果たすなんてできないですし、やりたくないです」
この女。やりたくないって言いきっちゃったよ。
「だから私のことを喰わせ続けてくれる人の家に側室か妾として入りたいです。正妻にされては困ります」
そんな発想があったのか。
正妻が嫌で側室になりたいなんて発想の令嬢は初めて見た。
でも、そういう考えなら尚更舞踏会で伯爵家クラスに見染められれば可能ではないだろうか。
「側室探しているような貴族だっていっぱいいるだろう」
それこそ山ほどいることだろう。
「誰でもいいってわけではないんです」
ミネルバが真面目な表情になった。
「私が太っている時は選択肢なんてないですから、あんな私でもいいって言ってくれる肩がいたらその人に嫁ぐしかありませんでしたが、今では選択肢があります」
確かに今のミネルバなら条件のいい家に嫁ぐことが可能だろう。
「私はディゼル様がいいです」
「ふえっ!?」
いきなりの発言に思わず変な声を上げてしまった。
俺は空いた口がふさがらない。
沈黙が続く。
ミネルバが口を開いた。
「だからメリルレージュ様の許可が取れたら、ディゼル様の側室にしてもらいたいです」
「ふぁっ!?」
その発言にさっきと違う感じの変な声を上げてしまった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
ようやく言葉を発することができたが俺だったが、情けなくもわかりやすく慌てふためいてしまっている。
「お、俺に嫁ぐ?」
「はい。メリルレージュ様の許可が取れたらですけど」
さっきも言っていたがそこはきちんとメリルに許可を求めるのか。指導が徹底されているな。メリル。じゃなくて。
「あっ。でも既にメリルレージュ様に下話はしてあります。このまま体型が人並みになったらディゼル様の側室にしてくれると言っていました」
「……いつの間にそんな話が?」
俺の知らないところで俺の側室の話が展開されてしまっている。
まず俺には妻もいなければ許嫁もいない。それなのに側室が決まりそうになるとはどういうことだろうか。
『初めての相手には弱みを見せる事になるからね。私が用意してあげるから待っていなさい』
いつかのメリルの言葉だ。
俺のファーストレディについては用意すると言っていたが、側室についても考えていたのか。
「ディゼル様?」
「い、いや、この事はあとでメリルも一緒にいる時に聞いてみよう」
「はい。よろしくお願いします」
ミネルバは笑顔でそう言った。
その日はいろいろとミネルバに対する認識を改める日になったのだった。
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