第6話
「ねぇねぇ柏葉さん! 帰国子女ってことはどこの国に住んでたの?」
「柏葉さん今度の土曜日ヒマ? 映画のチケットがあるんだけどさ」
「今日の放課後さ……」
最初の授業が終わるとクラスの男子と女子が一斉に美琴の席にやってきていた。
さすがに窮屈すぎたので俺は一目散に遠く離れた翔太の席まで逃げることにした。
「さすがの蒼介くんもあの集団には敵わないか」
翔太は俺が来たことに気づくが、自分のスマホ画面に釘付けになっていた。
「何見ているんだ?」
俺が上からスマホの画面を覗き込むように見る。
画面には広大な大地で剣を持ったキャラクターが迫り来る敵の軍勢を倒し続けていた。
「何だこれ……ってこの前の動画か」
「そうそう、この前蒼介に頼んだやつ」
翔太はフルサイズにしていた画面を通常のサイズにすると、一箇所を指差す。
「ここ見てみな?」
翔太が指をさしたのは動画の再生数が載っていた。
「ちょっとまて、何この10万超えてるじゃねーか!」
再生数を見た俺は思わず大声を上げる。
翔太はオンラインRPGの動画を撮影して投稿サイトにアップしている。
それなりに固定視聴者がいるようだが、再生数は1万を超えればいい方だった。
それが今回はその10倍も伸びていた。
「やっぱあれだな……このボス倒してUR武器ゲットしたのがでかいのかもな」
翔太の話では動画で戦っているボス、エンシェントオーラドラゴンとか言ったか。
このボスは滅多に落とさない武器を持っているとの噂があり、数多くのプレイヤーが挑んだが手に入れた者はいなかったようだ。
翔太もそのプレイヤーの1人で何度もこのボスに挑んでいたようだ。
「流石に飽きてきたから、これで最後にして寝ようと思ったらさ……これだよ!」
翔太が再度スマホを指差す。
動画では倒したボスの体が光ると、次の瞬間神々しい光の剣がプレイヤーの元に現れていた。
どうやらこれが10万を超える再生数の要因のようだ。
「ってかさ、蒼介も一緒にやろうぜ? おまえのPCスペックなら最高品質でプレイできるぜ?」
「やらないって何度も言ってるだろ……」
「ってかおまえって頑なにゲームやろうとしないよな?」
「まあな……」
「あ、もしかして……!」
翔太が突然大声をあげたので驚きで体がビクッとした。
「あれだろ? ゲームやってるやつとは付き合えないって振られたクチか?」
翔太は下品な笑いをしながら俺を指さしていた。
ってかそれ何ヶ月か前の翔太だろ……。
「……それだったらどんだけよかったかな」
俺は静かに呟く。
昔はよくゲームをやっていたけど、今はすることができなくなっていた。
——あの時を境に。
キーンコーンカーンコーン……!
次の授業を告げる予鈴が鳴り出したので、自分の席に戻ろうとしたが美琴の席にはクラスメイトが群がっていた。
さすがにずっと相手をしていた美琴も疲れたのだろう。先ほどまで元気だった顔に疲れが出ていた。
「でさ美琴ちゃん、今日の放課後さ……」
「う、うん……ちょっと今日は用事があるから」
「それじゃ、明日は?!」
それに気づかない残った数人の男子クラスメイトは美琴に声をかけていた。
「そ、それよりも授業始まるから……!」
「あ、へーきへーき! あの先生いつも来るの遅いしな!」
……さすがに見ているこっちが苛立ってきた。
「はいはい、ごめんよー!」
俺は美琴と男の間を割るように中に入っていき、そのまま自分の席に座る。
「おいおい邪魔するなよ、天城!」
1人の男子がニヤニヤしながら俺の肩に手を乗せてきたので、無言でその手を振り払いってから相手を睨む。
「な、何だよ……!」
先ほどまで威勢がよかった男は声を振るわせていた。
「授業始まるからさっさと戻れよ」
「な、なんだよ! 美琴ちゃんにカッコいいところ見せたいからって調子に乗るなよ!」
男は今にも殴りかかろうとしていたが、一緒にいた連中に両脇を抑えられてしまう。
「おい、何だよ放せって!」
「バカやめとけって! 知らないのかよ天城はな……!」
そのまま、引きづられるように席の方へ戻されてしまう。
「まったく……」
俺は一息つくと、机の中から次の授業の教科書とノートを取り出す。
「蒼にぃ……」
横から震えた声が美琴の声が聞こえたと思ったら、美琴が俺の肩に抱きついていた。
「怖かったよ……!」
相当怖かったのか、体を震わせていた。
「……俺こそ逃げてごめんな」
そう言って俺は美琴の頭を撫でる。
クラスメイトたちはその光景を見ると……。
「ちくしょう! 天城マジイケメンじゃねーか!」
「あーあ……柏葉さんの好感度爆上がりだな!」
「ちくしょう! 俺たちに救いは! 救いはないのか!」
勝手に盛り上がっていた。
頼むから静かにして欲しいんだけど!?
「……ってことがありましたが、柏葉さんはその後も元気に過ごしていたようです」
日誌に今日あった出来事を書いてバタンと音を立てて日誌を閉じた。
教室の窓から外を見ると夕陽が沈みそうになっている。
あれからずっと休み時間と昼休みは一部の男子が美琴の席に来ないようにしていたため
日誌を書く時間がほとんどなく、放課後になってようやく書くことができた。
職員室に行き、担任に日誌を渡したのはいいが、遅いから始まり軽く小言を言われてしまう。
……もしかして俺の今日の運勢最悪か?!
「失礼しましたー!」
職員室のドアを勢いよく閉めるとピシャッという木と金属が混ざり合ったような音があたりに響いていた。
こんな時間まで学校にいても面白くもないしさっさと帰ろう!
「あ、蒼にぃ……」
下駄箱で上履きから靴に履き替えていると後ろから美琴に声をかけられた。
「さ……美琴、帰ったんじゃないのか?」
「もしかしてスマホみてないの?」
美琴に言われてカバンの奥にあるスマホを取り出すと、美琴からのLIMEが数件きていた。
日誌を書くのに必死になってたからスマホをカバンにいれていたことをすっかり忘れていた。
ちなみにLIMEには……。
Mikoto.K
『学食で待ってるから一緒に帰ろう、蒼にぃ!』
と書かれていた。
「ってことで一緒に帰ろうよ!」
そう言って美琴は俺の腕を掴む。
「わかったから腕を掴むな、靴がとれないだろ!」
まったく、午前中の泣いていたのは嘘だったのかと思いたくなる豹変ぶりだな。
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【あとがき】
▶当作はカクヨムコンに参加中です!!
お読みいただき誠にありがとうございます。
次回もどうぞ、お楽しみに!
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