咲いてくれ夜香蘭
十余一
咲いてくれ夜香蘭
私が担当する
隣の畝を見ると、先輩が育てた花が見事に咲き乱れています。凛と上向きに咲き誇る白の
どうしたら先輩のように上手に栽培することが出来るのでしょうか。私は秘訣を聞くべく質問をすることにしました。
先輩は
「うーん。丁寧に時間をかけて、じっくりやることかな」
そうして下準備の大切さを説いてくれました。入念に苗床となるものを整えてこそ、私たちの努力は実を結ぶのだそうです。私のやり方は少し勢い任せで雑だったように思えてきました。勉強になります。
「あとは、虫の力を借りるのも良いかもしれないよ」
「虫、ですかぁ……」
正直、虫はかなり苦手です。小さな体でうねうねと動き、這い寄ってくる。何を考えているのかよくわからない生き物です。しかしこれも清く正しい花を咲かせるため! 私は「よかったら、これ使って」と先輩が渡してくれた瓶を抱え、自身の担当する場所へ戻りました。
すると、苗床になっている者が手を伸ばし、私の足首を掴んできたではありませんか。その頭には刺々しい葉で全てを拒絶するような
亡者は何かを喋っているようですけど、苦痛に歪みただの
「私に
見事に咲いた薊の花を引っこ抜き、先輩から借りた
根を抜いたときの悲鳴に負けず劣らずの喚き声を聞くに、虫の効果は絶大なのでしょう。針のように固く鋭い歯でどんどん肌を耕してくれています。
この男は現世で悪事を働きました。くだらない反抗心で目上の者に嘘を吹きこみ陥れ、更には無関係の者に濡れ衣を着せようとしたのです。犯した罪は
「ちゃぁんと反省して、次は夜香蘭を咲かせてくださいね」
私が働く場所は
亡者を責め立てるのも、何も楽しんでのことではありません。私たち獄卒は罪を償ってもらいたい一心で、こうして日々反省を促しているのです。
亡者から生えた豊かな植物に囲まれ、呻き声や悲鳴が絶えない賑やかな職場で私は働いています。
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