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『そこに眼鏡があるだろう? 好きなものを選んでくれ』

 丘では声しか聴こえていなかった主催者の真の姿、というものにも驚きを隠せないまま、球体はテーブルに広げられた五十四つの眼鏡ケースにぼくらの視線を誘導させた。

 誰ともなく問い掛ける。

「これは?」

『このデスゲーム専用の端末、シーカー。つけてみれば分かるはずだ。視力は最適化されるから、生前の眼鏡はゴミ箱にでも捨てるがいい』

 ざわざわと。戸惑いの方が大きいけれど、やはりこの中で金髪をした男性は、思い切りがいいようだった。

 誰よりも早くテーブルからもぎ取るように眼鏡ケースを一つ取ると、装着する。

「思い入れのあるものなんだが……」

 続いて、もともと眼鏡をかけていた山代さんはぶつぶつとそんなことを言いながらシーカー(眼鏡)を手に取り、ケースに入れ換えて生前の眼鏡を保管する。

 見習って、ぼくも適当に選んだシーカーを耳元に掛ける。

「これは……」

 ただの眼鏡でないことは明らかだったけれど、これはもはや、――ゲームじゃないか。

 丘で受けた主催者の説明にもある、【暗殺】や【決闘】といったものが、スキルとして確かに視界に表示されている。

 ――眩い光が隣で弾けた。

「山代さん!?」

「あっ!? ッ、なんだこれ! ち、違う、勝手に出たんだ。お前らもたぶん、出せると思う……」

『シーカーは二種類の形に変形する。その名もムーダーエッジとデュエルエッジ。眼鏡を外し、手に握り込み、意識をすれば顕現するとも』

 ――そうして生まれる、短剣。あるいは長剣。

 この場にいる五人がそれぞれ手にしたその刃には、二種類の形が確かにあるが、それ以外に差は見受けられない。

 形として今目の前に、命を刈り取れる凶器として顕現した剣に対して、途端にぼくらは距離を取り合ってしまいながら。

 ついに命のやり取りが、この場にあり得ることを自覚したのでした。

『それから、色の確認はシーカーで行われる。他言は禁物だ。すぐに命を狙われてしまうよ』

 妙に手に馴染んでしまうエッジがとても気味悪く思えてしまっていて。

「色……」

 視界。どこを探しても、色と判断出来るものはぼくの掛けたシーカーのどこにも表示されていなかった。

 ちらりと横目で見るように、山代さんを始め、他の方々の様子を観察するけれど、彼らがどちらなのかも既に判別付かないでいる。

 要するに。

 このデスゲームの本質としてある疑り合いは、すでに始まったようなものだった。

 そしてぼくは――色なしだと決まったのでした。

『あとは参加者が全員ここに集うまで、君らはこの場所で自由にしてくれ。その後、マルクト内の金銭システムと衣食住の説明を行う』

「質問だ」

 そう声を上げたのは金髪の男性。

「ここにいるやつを殺していけば、本当に蘇生してくれるんだな?」

『……ああ、それは、もちろんだとも』

 その目は誰よりも蘇生に飢えていた。

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