第6話

 ダンジョンはどうしてこんなにも冒険者たちを魅了するのだろう。


 マーシェスダンジョンが「レジャー施設」なのは地下3階まで。

 そこから下は進めば進むほどに難易度が上がり、現在最前線で攻略しているパーティーは最下層まで到達している。


 冒険者は大きく二種類に分かれる。

 冒険者を本業にしてそれを生業にしている者と、本業は別にあり趣味として冒険を楽しんでいる者だ。

 もちろん、趣味が高じて本業に鞍替えしたという冒険者も多いし、冒険者を引退してからもダンジョンの魅力に囚われ続けて冒険者協会の一員になったり、街で商店を経営してダンジョンに携わり続けようとする者も多い。


 ダンジョンでしか手に入らない希少価値の高いお宝や素材を求める者、純粋に魔物狩りを楽しむ者、誰よりも早く踏破することが目標の名声を求める者、楽しみ方は人それぞれだ。


 わたしの所属する攻略パーティーのリーダー、ロイさんもまた、自他ともに認める「ダンジョン沼にはまったダンジョン馬鹿」のひとりだった。

「俺はこれでも一応いいとこの坊ちゃんなんだぜ?」

 ロイさんはそう言っていたが、パーティーが拠点としている酒場の二階に入り浸り、家に帰っている様子はなかった。

 マーシェスダンジョンの最前線を突っ走るパーティーのリーダーとして「うらあっ!」だの「おりゃあぁぁっ!」だの雄たけびをあげながら毎日大剣を振り回し、どんな魔物でもなぎ倒していく最強の冒険者だった。


 粗野で言葉遣いも乱暴で、短気で喧嘩っ早いところがあって、とてもじゃないけれど「いいとこの坊ちゃん」には見えなかった。

 

 そんな人のどこにどう惹かれたのかわからないけれど、いつの間にか好きになっていた。

 ずっとそばに居て、ずっと一緒に冒険したいと思っていた。


 それなのに彼は、突然姿を消してしまった。


 マーシェスダンジョンは地下50階が最下層だと言われている。

 最下層で待ち構えるラスボスとの戦いを誰よりも楽しみにしていたはずなのに……。


 パーティーの解散やメンバーの入れ替え、引退はよくある話だけれど、攻略を牽引していたロイさんを失ったことは、我がパーティーだけでなくマーシェスダンジョン踏破を目指していた全パーティーの士気低下につながった。

 それでもロイさんがいつ戻って来てもいいようにと、我がパーティーはペースダウンしながらも懸命に前進を続けている。


 だからわたしは、本来ならば結婚どころではないのだ。


 子作りは待ってほしい——旦那様にそう告げれば理由を問われるだろう。


 正直にマーシェスダンジョンの踏破を目指しているからだと答えたら、旦那様はどんな顔をするだろうか。

 身勝手な人間だと呆れられ、もう結婚したのだからそんな夢を追うのはよせと叱責されるに違いない。

 しかし、今すぐ冒険者を引退するという選択肢はない。

 そのことをどう切り出そうか。どう納得してもらおうか。

 あるいは、どうやって誤魔化せばいいのかと、いくら考えても良い案が浮かばないまま初夜を迎えてしまったから、旦那様からのまさかの白い結婚宣言と別居宣言は、今のわたしにとって願ってもない好待遇だ。


 旦那様、ありがとうございます!

 わたし、ダンジョン攻略を頑張りますねっ!


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