恋薬師は砂漠の後宮に囲われる

青によし


 少女は、水差しにオアシスから汲んできた水を入れた。そして、ツルレイシの粉末を一匙、蜂蜜を二匙加えてかき混ぜる。窓の外を見れば、月が明るく輝いていた。少女は窓際の机に水差しを移動させる。すると、水差しの水面に、月の姿が映りこんだ。


「月の魔人、起きて。また薬を作りたいの」


 少女は水差しに向かって話しかけた。

 すると、手のひらに載る大きさの水差しが、白くほのかに光りだす。


『久しいのぉ。今回はどんな人間に使うのじゃ?』


 好奇心が見え隠れする、女性の声が響いた。しかし、姿はどこにも見えない。声は、少女の頭の中にだけ響いている。


「オアシスを挟んだ向かいの村に住んでいる人よ。とても綺麗で、聡明そうなお姉さんだった。報われない恋に悩んでいて、何とか力になってあげたいの」

『そなたはこの薬が必要だと判断したわけか。よろしい。妾の力を貸そう』


 水差しの光が、さらに強く、そして青く変色した。その光は少女の身体を包み込み、やがて少女の手のひらへと凝縮されていく。少女は手のひらに集まった青い光を、ゆっくりと水差しへと流し入れた。水差しには青く透き通った液体が満ちている。


「ふう、ありがとう。これであの人を救えるわ」


 少女は額に浮かんだ汗をぬぐった。


『そうか。では妾はまた眠るとしよう。彼女に、ジンの恵みがあらんことを』


 そう言い残し、水差しは静かになったのだった。

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