第49話 声をかけた先は
「……どうしよう」
恭一たちに下ろされた駅で、隣にいる彼女に聞こえないよう、ベンチに座りながら呟く。
もう、この機会しかないのは分かってる。
そのために、この誰もいない駅で降ろしてきたのも。
ただ何を話していいか分からない。
ゲームの話でもしたらいいんだろけれど、本当にそれでいいのかと考えてしまう。
隣の彼女を見る。
彼女は一緒に下ろされて気まずそうな表情を浮かべていた。
駅のホームに冷たい風が通りすぎる。
彼女と初めて出会ったのはサッカー部を辞めた日。
どうしてもあのゴールを決めたときの快感が忘れられず、サッカー部にマネージャーとして入って、1年間続けていたが、選手たちを見てどうしてもやりたくなってしまった。
5年前の大会初戦で足を怪我してから、思い切りスポーツができなくなったのも忘れて、彼らを追いかけようとした。
しかし、足が動かなかった。もう分かってるんだ何度も、何度も医者から言われた。
そんなとき、彼女と出会った。
ホームで本を読んでいた。次の日も彼女は近くで本を読んでいた。
それから本を読み出した。ラノベだったけど。最初はただ、彼女の本が気になっただけ。サッカーの変わりになるものが欲しかっただけだった。
それでもいつも隣にくる彼女が気になって、話しかけてみたいと思うようになった。運命だとも思いもした。
それから何度か彼女を見て、目があって、プールや夏祭り、本屋でも彼女と会って、一度は話すことができた。
彼氏がいると分かってからは、初恋が終わったと思ったけれど、諦めきれなかった。だから電車の時間は変えなかった。
弟だと知って驚いたが、もうこれ以上はないチャンスだ。
今度こそちゃんと。
グッと拳を握る。
これが最後だと思おう。
何度も練習したあの言葉で。
言葉って言うほどじゃないけど、ただ話しかけるときの声に過ぎないけど。
あの言葉で返ってこなかったら、もう諦めよう。
よしーー
「「あの!」」
彼女と声が重なった。
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