第26話 妹

「最近、兄の様子がおかしい」


 私は騒がしい物音がする隣の部屋を気にしながら呟いた。


 時刻は十九時。


 いつもだったらこんなにうるさくない。

 もしかして、私が仕掛けた盗聴器がバレた?

 いや、そんなことはないはず!

 鈍いお兄ちゃんだもん。


 そしたら、ゴキブリが出たとか?

 いやいや、それも違うはず!

 だってちゃんと私が、毎日内緒で丁寧に掃除してるからね! 

 シャツの場所もあれな本の場所もバッチリ把握済み。


 だったら何だろう。

 好きな女の子ができた、とか?

 いやいやいやいや、ないないないない!

 ないよね? ないはずだよね。

 けど――


「昔はこうだったなぁ」


 5年前は毎日たくさん、お兄ちゃんの友達が遊びに来て、ゲームをして、うるさかった、それがなぜか嬉しかった。

 私とも遊んでくれたしね。


 楽しそうにサッカーをしていて、いつもゴールを決めていて、私に手を振ってくれていたのに。

 あんなことがあって――。


「ってちがう、違う!」


 私はお兄ちゃん離れをしたんだ!

 お兄ちゃんのことなんか全然気にし――


 また物音がした。

 その瞬間、私は気づいたら壁に耳を当てていた。


 自然に壁に耳を当てちゃうことってあるよ、ね?

 盗聴器は使ってないから、今回は良いはず。

 うん、そう!

 私は悪くない。

 お兄ちゃんを気にしてなんかない。

 ましてや、ブラコンなんかじゃ絶対ない!


「よし、もう気にせずに勉強するぞ」


 首を思い切り振り、くるくると回転する椅子に座る。

 机の上にはたくさーんの宿題が山のように置かれていた。

 これでもお兄ちゃんとは違って、頭がいいのだ。

 えっへん!


 部活でもサッカー部のキャプテンとして頑張ってるし。

 お兄ちゃんとは全然違う!

 変な本読んで急にニヤニヤしだしたお兄ちゃんとは絶対違う。


「あ~あ、昔のお兄ちゃんに戻ってくれないかなぁ。カッコいいお兄ちゃんに――え?」


私がお兄ちゃんのことを口に出しちゃった瞬間、トントンとドアを叩く音がして、扉が開いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る