第23話 発展しないラブコメ②

「………………ええっと」


 見られちゃった。絶対に見られちゃった。

 どうしよう、どうしよう、どうしよう。


 綾香が言ってた通り、話しかけてきてくれたのに。

 気になっている男の子に、読んでいる本がラノベだってバレちゃった。


「……ねぇ、その本って」


 絶対に引いてる。

 私のこと嫌いになっちゃったかな。

 急に話しかけてくるから、こうなっちゃったんだけど。


 それよりも、まずは返事しないと。

 ……何も返事が浮かんでこないよ。


「あ、あのさ」

「は、はひ」


 声上ずっちゃった。

 ああもう、すごく緊張しちゃっている。

 顔も真っ赤になってるかも。落ち着け、私。


「それさ――」


 顔が近くに見えてきちゃった。何を言われるんだろう。もし嫌いって言ってきたら――


「進撃文庫の新刊だよね」

「…………え?」


 なんで知っているのっ‼

 これ新刊だよ? クラスの男子でも、アニメ化作品以外、読んでいるのを見たことないのに。


「……えっと、そうです」


 もしかして、読んでいたりもするのかな。

 そうだったら、感想言い合いたいなぁ。


「……俺も、その作品読んでいるんだよ、ほらこれ」


 やった、読んでた。しかも今持っているなんて。嘘だよね、ラノベじゃないんだから、こんな展開。ドキドキして汗かいてきちゃった。


 ちょっと感想聞いてみたりしようかな。いいよね、ちょっとくらい。


「……どうでしたか? その作品」

「作品の感想ってことだよね?」

「そうです。少しだけ聞いてみたくって、ダメですか?」


 クラスの友達とも趣味が合わなかったし、初めて誰かの感想を聞ける、初めての相手が、まさかの気になっている人なんて。天にも昇る気持ちってこういうときのことなのかな。


「ダメではないんだけど、感想得意じゃないから」

「それでも、お願いします」

「え、うん。だ、だったら言うよ」

「はい!」


 どっちなんだろう。もちろんあっちだよね。

 

「面白くなかった」


 最悪だぁぁぁぁぁぁっ!


「なんで、なんで、このシーンとか面白かったじゃないですか!」


 おかしいよ、間違ってるよ。神様どうして? ラノベの展開っぽくなるんじゃないの。


「えっと、どのシーン?」

「例えばここ、七三ページ。幼なじみの黒羽ちゃんが告白するところです」


 一番好きなページを開いて彼に見せる。

 このページはさすがに面白かったって言うはず。


「……そのシーンは――」


 うん、きっと大丈夫。ここからだもん、黒羽ちゃんが主人公へアタックするの。


「ごめん、あんまり面白くなかった」


 嘘だよね、絶対に面白いシーンなのに。って、めげちゃだめだ。ちがう、違う、たぶんこの作品が合わなかっただけ。


「じゃあ、好きな作品はなんですか」


 一つは合う作品があるはずだよ。そうに決まってる。


「それは」

「それは?」

「もう電車来ちゃうから、ごめん!」

「……え?」


 彼が後ろを向いて遠ざかっていく。

 名前をまだ聞いてない。話したいこといっぱいあるのに、まだ何も出来てない。


「待ってください!」


 伸ばした右手は彼の制服の裾をギュッと掴んでいた。


「あの、なまえ。名前を教えてくれませんか」

「俺の名前は――」


「――――――」


 瞬間、電車が音をたてて通り過ぎていった。

 な、なんていったの? 電車の音で、全く名前が聞こえてなかったんだけど。


「あの、もう一回」


「――――まもなく」


 あ、電車が来ちゃった。


「……ごめん」


 言われて、制服の裾からゆっくり手を離す。


「……わかりました。呼び止めてしまってごめんなさい」


 返事はなかった。ゆっくりと距離が離れていく。

 それでも、遠ざかっていく背中は大きくて、いつもより近くに感じた。

 

 私たち(俺たち)は今日も違う車両に乗る。

 友達にもなってない、恋人には全然届かない。発展していない関係。

 

 それでもいつかはなれることを信じて。

 学校がある平日。

 七時一〇分。

 駅のホームの中央。

 私たちはそこで待ち合わせをしている。


「「明日こそは話せるといいな」」

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