第15話 夏祭り②

 ……どうしよう。


 待ち合わせの神社で綾香を待っていたら、そこに彼がいた。

 電車のホームでいつも隣にやってくる男の子だ。


 普通に待っていればいいだけだと思うけど、夏休み中ずっと会えなかったから、どうしても彼のことが気になっちゃう。


 もう帰ろうかな、でもすぐ来るって言ってたし。

 本当に困ったよ。


 あ、本を読み始めちゃった。


 浴衣だから持ってこなかったけど、持っていたらいつもと同じになったんだよね。

 どんな本を読んでいるんだろう。


 お祭りとか出てきたりするのかな。

 ラノベみたいに彼と一緒にお祭りを回ってみたい。だけど、今はまだこの距離感の方が良かった。


 ……うう、浴衣着てきたけど、夜遅くだからちょっと寒い。

 早く来てくれないかな、綾香。

 

  ◇◆◇◆◇


「くしゅんっ!」


 隣で可愛らしいくしゃみが聞こえた。

 物陰で草木が揺れる音がする。


 少し寒いと思っていたけれど、浴衣はもっと寒いはずだよな。

 使い捨てカイロとかあったっけ。いや、あるはずないか。


 ワンショルダーバッグの中には、ポケットティッシュとハンカチ、絆創膏しか入っていなかった。


 着ている服をかけてあげたいけど、迷惑だと思うし。


「くしゅんっ!」


 またくしゃみが聞こえた。

 もう、迷惑とおもわれてもいいや。

 シャツを脱いで彼女にかけてあげよう。

 そう思ったときだった。


「お待たせ、ごめんね、待たせちゃって」


 彼女のもとへ浴衣姿の女の子が駆け寄った。

 たぶん友達なんだろう。楽しそうに話し始めていた。


 そっと脱いだシャツを着る。

 普段やらないことはあんまりやらない方がいいな。


 彼女たちがゆっくり祭り会場へ向かっていく。

 別れ際に「ありがとう……ございます」と、彼女の声が聞こえた気がした。


 その数分後、恭一からのLINEが来た。


『ごめん、行けなくなった』

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